飲食店の利益を最大化するには、売上の向上だけでなく「コスト管理」も欠かせません。中でも食材の在庫管理は、多くの店舗が直面する重要な課題です。
「気づいたら食材を無駄にしていた」「在庫の量を正確に把握できていない」といった状態は、知らぬ間に利益を圧迫する原因になります。
この記事では、在庫管理の基本から、エクセルやアプリを使った効率的な方法、さらに本格的な在庫管理システムの導入までを解説します。
目次
飲食店の在庫管理とは

飲食店の在庫管理とは、食材・調味料・ドリンクなどの数量を正確に把握し、適切に管理する業務全般を指します。目的は、「どの食材を」「いつまでに使うか」「どこに保管されているか」「どれだけ残っているか」を明確にすることです。
特に、生鮮食品のように賞味期限が短く、温度管理が必要な食材は、品質の劣化やロスのリスクが高くなります。そのため、在庫を適切に管理し、無駄を減らすことが、安定した店舗運営に直結します。
お店の在庫管理が飲食経営に与える影響
在庫管理は地味な作業に見えますが、その影響は飲食店の経営全体に広がります。ただ食材を数えるだけでなく、利益を最大化し、無駄やリスクを減らすための重要な経営戦略でもあります。では、具体的にどのような効果があるのかを見ていきましょう。
機会損失や食材ロスを防ぐ
適切な在庫管理は、お店の利益に直結します。もし人気メニューの食材が足りなくなれば、注文をお断りすることになり、売上の機会を逃してしまいます。これが「機会損失」です。
反対に、食材を多く仕入れすぎると、使い切れずに賞味期限が切れてしまい、廃棄せざるを得ません。仕入れ費用がそのまま無駄になる「食材ロス」が発生します。
正確な在庫管理は、こうした機会損失や食材ロスを防ぐための最も効果的な手段です。必要なものを、必要な時に、必要な量だけ仕入れる。この基本を徹底することが、無駄なコストを削減し、利益を確保することに繋がります。
品質低下や食中毒の対策
在庫管理は、単なる数の管理ではなく、料理の品質やお客様の安全を守る重要な業務でもあります。
例えば、冷蔵庫の奥に古い食材が残っていたり、仕入れ時期が不明なまま使われたりするケースは珍しくありません。こうした食材は風味が落ちるだけでなく、場合によっては食中毒などの重大なトラブルに繋がる恐れがあります。
保管状態が悪ければ、異物混入や交差汚染といった衛生リスクも高まります。そのような事態を防ぐには、食材の配置や保管ルールを決め、古いものを手前に置くなど基本を徹底することが大切です。
適正な仕入れ量を把握する
在庫管理を続けると、どの食材が、いつ、どれだけ使われるかが見えてきます。
例えば「週末はパスタの注文が増える」「雨の日はドリンクの注文が減少する」といった傾向も、データを活用することで容易に把握できます。
こうしたデータは、感覚ではなく根拠のある仕入れ判断に役立ち、読みが外れるリスクを減らしてくれます。無駄な仕入れを防ぎ、必要な分を確実に確保することが、ロス削減に繋がるでしょう。
飲食店における在庫管理の流れ
ここまで在庫管理の重要性について見てきましたが、具体的にどのような手順で進めればよいのでしょうか。飲食店の在庫管理は、大きく3つのステップに分けられます。この基本的な流れを理解し、日々の業務に落とし込むことで、食材ロスや発注ミスを減らすことができます。ここでは、その一連の流れを見ていきましょう。
在庫状況を把握する
在庫管理の基本は、今お店に「何が」「どれだけ」あるかを正確に把握することです。
毎日の営業終了後や週の初めなど、お店で決めたタイミングで主な食材の残量を数え、在庫管理表などに記録しましょう。その際、その日にどれくらい使ったのかも合わせて把握しておくのがポイントです。
この作業を継続することで、「この食材は予想以上に消費が早い」「先週仕入れた食材は、まだ十分に残っている」といった使用量の傾向を把握できるようになります。また、管理する際は「冷蔵品」「冷凍品」「常温品」のように、保管場所ごとにリストを分けておくと、確認作業が大幅に効率化されます。
仕入れ量を決める
在庫数がわかったら、次は発注です。しかし、ただ減った分を機械的に注文するだけでは、最適な仕入れとはいえません。
ここで重要になるのが、少し先の状況を読む視点です。例えば、週末の予約状況や近隣でのイベント、新しい季節限定メニューの開始など、客足がどう動きそうか予測を立てます。
日々の在庫データとこうした予測を組み合わせることで、「この牛肉はいつもより多めに」「この野菜は普段通りで大丈夫」といった、経験則だけに頼らない、根拠に基づいた的確な判断が可能となります。
無駄な仕入れは、食材ロスになるだけでなく、お店の大切な現金を減らす直接的な原因です。的確な発注は、手元の資金繰りを安定させることにも繋がります。
棚卸を行う
在庫管理を続けていても、帳簿上の数と実際の数が合わないことは少なくありません。このズレを定期的に確認し、管理の精度を高める作業が「棚卸」です。月に一度、あるいは週に一度といったペースで、記録と実際の在庫を一つひとつ照らし合わせることで、記録漏れの廃棄や原因不明のロスなどを把握できます。
もし、この棚卸が不正確なままでは原価計算に誤差が生じ、お店の正しい利益が分からなくなってしまいます。その結果、損益分岐点の分析といった重要な経営判断を誤る可能性も出てくるでしょう。
棚卸は、手書きの管理表(紙)、エクセル、あるいは専門のシステムなどを使って行えます。詳しい方法や効率化のポイントについては、以下の記事もご参照ください。
関連コラム:飲食店の棚卸を徹底解説!効率化のコツや注意点を押さえよう
【在庫管理の方法】手書き・エクセル・アプリを比較

在庫管理と一言でいっても、その方法は一つではありません。手書き、エクセル、そして在庫管理システムまで様々です。それぞれにメリットとデメリットがあり、お店の規模や状況によって選択は異なります。ここでは代表的な方法を比較し、それぞれの特徴を見ていきましょう。
手書きで在庫管理
ノートとペンを用意すれば、誰でもすぐに始められるのが手書きの大きな利点です。特別な機材や知識が不要で、コストもほとんどかからないため、開業したばかりの小規模店舗でも取り入れやすい方法です。
ただし、数字の記入や集計をすべて手作業で行うため、計算ミスや記録漏れといった人的ミスが発生しやすくなります。
また、担当者の独自ルールで記録されていると、他のスタッフが内容を把握できず、管理が属人化する恐れがあります。品目数が少ない店舗では有効ですが、データを蓄積して分析に活かすには限界があり、不便さを感じる場面も出てくるでしょう。
エクセルでの在庫管理
手書き管理から一歩進めたい場合、効率化しやすい方法としてエクセルでの在庫管理があります。あらかじめ関数を組んだ表を作っておけば、数値を入力するだけで自動集計され、計算ミスを減らせるでしょう。
データの保存や印刷も簡単で、管理や報告の手間を省ける点もメリットです。ただし、関数やマクロの知識がないと、自分で表を作るのは難しく感じるかもしれません。
また、複数人で共有すると入力忘れやファイルの重複など、運用上のトラブルも起こりやすくなります。まずは試してみたい方は、ネット上で無料配布されているテンプレートを活用するのも有効な方法です。
在庫管理システムで管理
在庫管理の精度や効率をさらに高めたい場合は、専用の管理システムを導入する方法があります。
中でも、POSレジと連携したシステムには、レジ画面上で在庫状況が把握できる機能が備わっています。「Aランチ 残り5食」などの表示があれば、品切れによる対応ミスを防ぎ、接客トラブルの回避にも繋がります。導入には費用がかかりますが、作業の負担を減らし、売上やロスを可視化したい方にはおすすめです。
正確で効率的な在庫管理を行う5つのポイント

在庫管理の方法を決めたあとは、その精度と効率をさらに高める工夫が必要です。
ここでは、日々の業務をスムーズに進め、食材ロスや欠品を防ぐための5つのポイントを紹介します。
- ABC分析を行う
- 在庫回転率を把握する
- ロケーション管理を行う
- 先入れ先出しを徹底する
- 在庫不足や過剰在庫を回避する
1. ABC分析を行う
まず試したいのが、在庫管理にメリハリをつける「ABC分析」という考え方です。これは、お店で扱う食材や商品を、売上への貢献度が高い順にランク分けする方法です。
Aランク:売上の7〜8割を占める、お店の看板メニューなどの主力食材
Bランク:Aランクに次いで売上に貢献している中堅どころの食材
Cランク:売上への影響は小さいが、欠かせない調味料や備品など
このように分類すれば、どの食材を重点的に管理すべきか一目で分かります。例えば「Aランクの食材は毎日必ずチェックする」といったルールを決めることで、管理の効率が上がり、無駄な手間を省けます。
より詳しい分析方法については、以下の記事も参考にしてみてください。
関連コラム:ABC分析とは?POSデータを使った分析方法・手順をわかりやすく解説
2. 在庫回転率を把握する
「どのメニューが、今日どれくらいのペースで出ているか」を把握することも、在庫管理の重要なポイントです。
例えば、「Aランチが残り3食」といった状況が分かれば、品切れによるお客様のご不満を未然に防ぐため、代替メニューをご案内するなどの対応が可能です。
こうした日々の在庫の動きを管理する上で役立つのが、POSレジなどに搭載された在庫サポート機能です。注文が入るたびにメニューの残り数を確認できるため、品切れを防ぎ、次の発注タイミングを見極めるのに役立ちます。
3. ロケーション管理を行う
食材を保管する場所を決め、誰が見ても分かるように整理しておくのが「ロケーション管理」です。冷蔵庫や棚ごとに「A-1」「B-2」といった管理番号をつけ、在庫管理表にもその保管場所を記録します。
その結果、どこに何があるか全員が把握でき、食材を探す手間が省けます。新人スタッフでも迷うことがなくなり、間違った食材を取り出すミスや、奥にしまったまま賞味期限が切れてしまうといった食材ロスを減らせるでしょう。
4. 先入れ先出しを徹底する
「先に仕入れたものから使う」という先入れ先出しのルールは、食材の鮮度を保ち、廃棄を防ぐために欠かせません。新しい食材を奥に、古いものを手前に配置するだけでも、賞味期限切れを減らすことができます。
さらに、納品日を箱にマジックで記入したり、日付ラベルを貼ったりすることで、新旧の判別がしやすくなり、取り間違いを防げます。
5. 在庫管理不足による売り切れや品切れを回避する
人気メニューの品切れや食材の仕入れすぎを防ぐには、POSレジの在庫管理サポート機能が役立ちます。
レジ上で「Aランチ、残り5食」といった、その日の在庫状況がひと目でわかるのが大きな特徴です。品切れを未然に防ぎ、補充や発注の適切なタイミングを通知します。その結果、無駄な仕入れを減らし、欠品による機会損失も回避できるでしょう。
USENレジを活用した在庫管理
USENレジでは、注文時にメニューの残数を画面で確認できます。売り切れが近い料理は事前に把握できるため、別のメニューをすぐに提案する対応が可能です。
「あと○食」と表示されることで、都度厨房に確認する手間が省け、スタッフの業務が円滑に進みます。接客中の混乱を防ぎながら、サービスの質を落とさずに営業を進められる点が大きな強みです。
よくある質問
ここまで在庫管理の方法について解説してきましたが、まだ細かい疑問点もあるかもしれません。ここでは、飲食店の在庫管理についてのよくある質問を解説します。
エクセルでの在庫管理はどこまで対応できますか?
1店舗のみの運営であれば、エクセルで十分に在庫管理を行うことは可能です。関数を使えば手作業での計算ミスも防げます。
ただし、POSレジとのデータ自動連携や、複数人での同時編集には向きません。お店の規模が大きくなったり、より効率化を進めたりする段階では、機能的な限界を感じるかもしれません。
在庫管理とPOSレジを連携することは可能ですか?
可能です。多くのPOSレジには、在庫管理をサポートする機能が備わっています。品切れを防ぎ、お客様へのご案内をスムーズにするほか、発注のタイミングを判断する上でも便利でしょう。
飲食店の在庫管理は「仕組み化」で差がつく

飲食店の在庫管理について、解説しました。まずは、自分のお店に合った方法から始めることが何より大切です。手書きのノートでも、エクセルのテンプレートでも、在庫ロスや品切れを減らすきっかけになります。
大切なのは、在庫管理を「人に任せる」作業にせず、「誰でもできる仕組み」にしていくことです。USENレジを活用した在庫管理の仕組み化をご検討の場合は、お気軽にご相談ください。

