店舗経営において、仕入れと売上のバランスはとても大切です。仕入れにかかるコストを正しく把握し、売上との割合を適切に設定することで、健全な店舗経営を維持できるようになるでしょう。
この記事では、仕入れ・売上・原価率といった基本的な用語の意味から、原価率の計算方法、業種別の目安、改善のための具体策までを解説します。
目次
仕入れと売上の基礎知識

まずは、仕入れと売上の基本的な用語について解説します。ビジネスにおいて、「仕入れ」「売上」「原価」「利益」といった基本用語の理解は欠かせません。これらは企業活動の収支構造を捉える上で重要な要素です。
特に「原価率」は利益を左右する重要な指標で、業種ごとに理想の数値が異なるため、その点についても詳しく説明します。
仕入れとは
仕入れとは、販売を目的に商品や原材料を購入する行為およびその費用です。飲食店なら肉や野菜、小売店なら完成品、サービス業では資材やライセンス料などが該当します。
仕入れは「いくらで買うか」だけでなく、「いつ、どれだけ買うか」も利益に直結します。同じ商品でも購入ロットを増やして単価を下げる方法もあれば、在庫を持ちすぎてキャッシュを圧迫してしまうリスクもあります。そのため、取引先の選定や発注サイクルを定期的に見直し、季節変動や相場の高騰に備えることが重要です。
仕入れの段階で利益の上限がほぼ決まるといわれるほど重要な工程ですので、数量・単価・納期・品質の4つの視点でチェックしましょう。
売上とは
売上とは、商品やサービスを提供して得られる総収入です。計算式は「販売価格 × 販売数量」とシンプルですが、その数字だけを追うと落とし穴があります。
例えば、大幅値引きで数が出ても、仕入れ原価と人件費が同じように増えれば利益は増えません。売上の質を高めるには、客数を増やす施策(立地改善・集客広告など)、客単価を上げる施策(セット販売・高付加価値商品の導入など)、リピート率を高める施策(ポイント制度・丁寧な接客など)をバランスよく行う必要があります。
売上はあくまでスタート地点であり、そこから費用を差し引いて利益を残すことを常に意識することが大切です。
利益とは
利益とは、売上からあらゆる費用を差し引いた残りのお金で、会社や店舗が最終的に自由に使える資源です。段階的には「売上総利益(粗利)」「営業利益」「経常利益」「当期純利益」があります。
最初に注目すべきは売上総利益で、これは売上高から売上原価を差し引いた金額です。売上総利益が薄い場合は、原価率が高いか、値付けが低すぎる可能性があります。
営業利益はそこから販売管理費を差し引いたもので、経常的な稼ぐ力を示します。数字を改善したい時は、どの利益段階で目詰まりしているのかを把握し、適切な対策を講じることが肝要です。
原価とは
原価とは、商品やサービスを販売可能にするまでに直接かかった費用の総称です。小売業では商品の仕入れ価格、飲食店では食材費に加え包装資材費や調味料費が含まれる場合があります。サービス業では外注費やライセンス使用料が該当します。
原価を正確に把握しないと、適切な価格設定ができず利益が圧迫される恐れがあります。費用の範囲をあいまいにせず、店舗内で共通ルールを定めて会計処理を行うことが、正確な原価率計算と利益管理の土台となります。
原価率とは
原価率とは、「売上のうち、どのくらいが原価にあたるか」を示す割合です。例えば、100円で売った商品を60円で仕入れていたら、原価率は60%になります。この数字が高ければ高いほど、利益は少なくなります。逆に、原価率が低いと利益が多くなります。
原価率は業種によって理想の数値が異なりますが、自分のお店に合ったバランスを見つけることが大切です。まずは計算の仕方を覚えましょう。
仕入れ原価と売上原価の違い
「仕入れ原価」と「売上原価」はよく似た言葉ですが、少し意味が違います。仕入れ原価は、商品を仕入れる時にかかった金額のことです。一方、売上原価は、実際に売れた商品の原価だけを計算したものです。
例えば、10個仕入れて3個しか売れなかった場合、仕入れ原価は10個分、売上原価は3個分となります。売上原価をもとに利益や原価率を出すので、混同しないようにしましょう。
原価率を把握するメリット
原価率を知ることで、どれくらい利益が出ているかを把握しやすくなります。また、「仕入れが高すぎるのでは?」「価格を上げた方が良いかも」など、改善のヒントが見つかります。
原価率が高すぎると赤字になったり、経営が苦しくなったりすることもあるため、定期的に見直すことが大切です。しっかり数字を把握することで、感覚に頼らず、根拠をもって判断できるようになります。
原価率の計算式は?
原価率は、まず期間中に実際に消費した「売上原価」の総額を集計し、それを同じ期間の「売上高」で割り、最後に100を掛けて百分率に直すだけと、計算自体はとてもシンプルです。
<計算式>
原価率=売上原価 ÷ 売上高 × 100
※例)月間売上が120万円に対し、当月に売れた商品の原価が42万円の場合、42 ÷ 120 × 100 = 35%が原価率になります。
ここで注意したいのは「仕入れたが、まだ売れていない在庫の原価」は除くという点です。正確な売上原価は「期首在庫+当月仕入高-期末在庫」で算出します。
例えば、当月に100万円分の食材を仕入れたとしても、月末に20万円分の食材が冷蔵庫に残っていたら、実際に売上に繋がった原価は80万円です。この「実際に売れた分」だけを計算するのが売上原価であり、正確な利益を把握するために非常に重要です。この計算によって、ロスや仕入れ過多による数字のブレも防ぐことができます。
計算にはエクセルを使う方法もありますが、POSレジやクラウド会計ソフトを使えば自動集計でき、ミスを抑えられるので初心者でも安心です。算出した値は業種平均や自店の目標と比べ、毎月必ず見直しましょう。
仕入れは売上の何パーセントに設定する?

仕入れが売上に対してどのくらいの割合になるかを示すのが、「原価率」です。この割合は業種によって大きく異なります。
例えば、飲食店は食材が必要なので原価率は高く、小売業は商品によって大きく変わります。一般的に、原価率は30%〜70%の範囲が多いですが、どのくらいが適切かはその店舗の戦略などによって変わります。
まずは自分の業種の目安を知り、それに合わせて仕入れの割合を調整していくことが大切です。
原価率が業種によって異なる理由
原価率は、業種の特性や扱う商品・サービスの内容によって変わります。例えば、レストランでは料理を作るために多くの食材が必要になるため、原価率は比較的高めです。
一方、アパレルや雑貨などは、仕入れ値と販売価格に差をつけやすいため、原価率を抑えることができます。また、高級品やブランド商品は利益率が高く設定される傾向にあります。
業種に応じた原価率を知ることで、無理のない経営計画が立てられます。
飲食店の場合

飲食店の原価率は30%前後が一般的といわれますが、ファーストフードは大量仕入れと効率調理により20%台になるケースもありますし、高級レストランだと希少食材や手間をかける分40%を超えることも珍しくありません。
看板メニューなど集客力のある料理はやや高い原価率を許容し、その分、ドリンクやデザートなどの低原価商品で利益を補う「メニューミックス戦略」が効果的です。
仕入れ価格の変動が激しい食材は、市場相場を週単位で確認し、必要ならメニュー改定や季節替えで調整すると、目標原価率を安定させやすくなります。
小売業の場合
小売業の原価率は、取り扱う商品ジャンルによって大きく異なります。
例えば、食品スーパーは鮮度管理や廃棄ロスが発生しやすく50〜70%が一般的です。対してアパレル・雑貨は30%前後、宝飾品や高級時計は20%以下に抑えられるケースもあります。
原価率を下げる手法としては、仕入れロットをまとめて単価を下げる、メーカーとのリベート契約を活用する、プライベートブランドを開発して利益率を高めるなどが有効です。
セールや値引きを行う際は、割引後の原価率が目標を超えないか事前にシミュレーションを行うことが欠かせません。
原価率が高くなってしまう主な原因
原価率が高くなると、売上があっても利益が出にくくなってしまいます。その原因は様々ですが、主に「商品の価格が安すぎる」「仕入れ価格が高い」「ロス(廃棄や無駄)が多い」といった点があげられます。
これらが積み重なると、経営を圧迫する要因になります。どこに問題があるのかを冷静に分析し、必要に応じて仕入れ方法や価格設定を見直すことで、利益率の改善に繋がります。
商品の値段が低い
原価率が高くなる原因のひとつは、商品の販売価格が安すぎることです。例えば、仕入れや製造に500円かかる商品を600円で販売すると原価率は約83%となり、経費を引くとほぼ利益が残りません。
価格設定を見直す時は、素材へのこだわりや限定性、健康志向など商品の価値を具体的に伝え、価格と価値のギャップを埋めることが大切です。いきなり大幅に上げるのではなく、限定メニューやオプション追加で客単価を段階的に引き上げると顧客離れを防げます。
さらにセット販売やサブスク型サービスを導入すれば、単品の値上げ効果を高めながら満足度も維持できます。
仕入れ価格が高い
原価率の上昇要因として最も分かりやすいのが仕入れ価格の高騰です。複数業者からの相見積もりで条件を比較し、数量割引や共同購入で単価を下げましょう。長期契約で価格を固定化すれば、市況変動リスクも抑えられます。
輸入品を扱う場合は為替予約でレート変動をヘッジし、突発的なコスト増を回避します。また、代替素材や規格変更で品質を保ちつつコストを削減する方法も検討しましょう。
仕入れリストを定期的に棚卸しし、「高単価・低回転」の品目を重点的に見直すと効果が出やすくなります。
ロス率が高い
ロス率とは、売れ残り・破損・廃棄などで原価が無駄になる割合です。飲食店であれば食材の賞味期限切れ、小売業なら季節外れ商品の値下げや破損が典型例です。
対策は在庫の可視化と先入れ先出しの徹底が基本となります。需要予測に基づき発注量を最適化し、クラウド在庫管理システムで在庫状況や期限を把握すれば、廃棄寸前の商品を値引きやセット販売で早期に消化できます。
ロス発生の都度、原因を記録・分析し、発注基準や陳列方法を改善すると、ロス率は確実に下がります。
店舗の利益率を高める方法

利益率を底上げするには、仕入れ・価格設定・在庫管理・業務フローという四つの領域を総合的に見直すことが必要です。
まず仕入れ単価と発注量を最適化し、販売価格は市場調査とテスト販売で段階的に調整します。在庫は回転日数と適正在庫を数値で管理し、ロスを最小限に抑える運用へ移行しましょう。
さらに、作業プロセスを可視化してムダな動線や二重入力を削減すると、人件費と時間コストを同時に圧縮できます。改善項目ごとにKPIを設定し、月次で効果測定を行うことで、利益率を着実に高められます。
仕入を見直す
仕入れコストを抑える第一歩は、現行の仕入れ明細を一覧化し、高単価品目と購入頻度の高い品目を特定することです。その上で複数業者から相見積もりを取り、数量割引や共同購入を活用して単価を下げます。
長期契約で価格を固定化すれば、市況変動リスクも抑えられます。発注サイクルを週次から日次に細分化すると在庫圧縮とキャッシュフロー改善が同時に期待できます。
さらに、取引先を価格だけでなく品質・納期・サポート体制で総合評価し、定期的に入れ替え候補を検討すると競争原理が働きやすくなります。仕入れリストを毎月棚卸しし、「高単価・低回転」の品目を重点的に見直すことが効果を出す近道です。
商品やメニューの価格を見直す
価格設定は売上と利益の両方に影響するため、慎重に行う必要があります。まず競合店と自店の価格帯を比較し、商品の独自価値やブランド力を踏まえて価格の妥当性を確認しましょう。
値上げを検討する際は、素材へのこだわりや期間限定性など付加価値を明確に伝えることで、お客様の納得感を高められます。ABテストや限定キャンペーンで段階的に価格を調整し、売上とリピート率の変化を測定すればリスクを抑えられます。
高原価率の看板商品は集客用と割り切り、低原価率の商品やセット販売で粗利を補完する「メニューミックス戦略」も有効です。価格改定の理由を店頭POPやSNSで丁寧に説明すると、顧客離れを最小限に抑えられます。
在庫管理を見直す
在庫管理の目的は「欠品を防ぎつつロスを最小化する」ことです。まず在庫回転日数などを参考に、適切な在庫水準を設定します。在庫管理をサポートするシステムを使えば、当日の在庫数を把握しやすくなり、発注ミスといったヒューマンエラーの減少に繋がります。
先入れ先出しを徹底し、期限が近い商品は値引きやセット販売で早めに販売すると廃棄ロスを抑えられます。棚卸しデータをPOSデータと突き合わせてロス原因を分析し、発注基準や陳列方法を改善すれば、品切れを防ぎ、適切な在庫量を保ちやすくなります。
定期的に在庫の状況を共有し、スタッフ全員が数字を意識する環境を整えると、ロス削減の効果が長続きします。
業務改善をする
毎日の作業を見直してムダを減らすと、人件費やロスが自然に下がり、利益率を底上げできます。POSレジを導入すれば、注文・会計・在庫管理が一元管理でき、レジ締め時間も短縮されます。モバイルオーダーやセルフレジを併用するとピークタイムでの行列が緩和され、回転率が向上します。
また、勤怠管理や仕込み表をデジタル化し、スタッフの作業負荷を平準化することで人件費を最適化できます。新人教育は動画マニュアルとチェックリストで標準化し、育成期間を短縮すると即戦力化がスムーズです。
業務改善の成果は工数削減や売上増など具体的な指標で評価し、月次レビューで改善策をアップデートすると継続的な効率化が期待できます。
飲食店での業務改善におすすめのPOSレジが、USENレジです。注文入力から売上集計までをワンストップで管理でき、レジ締めが自動化されるため、スタッフが接客に使える時間が増えます。
仕入れと売上の割合を見直して経営改善を目指そう

経営の安定には、仕入れと売上のバランスをしっかり見直すことが欠かせません。まずは業種平均を基準に自店の目標値を設定し、毎月「仕入れが高過ぎないか」「値付けが低過ぎないか」「ロスが膨らんでいないか」を数値で確認しましょう。原価率を把握することで、無理のない仕入れや価格設定ができ、利益をきちんと残すことができます。
今回ご紹介したように、原価率の計算や業種ごとの目安、見直すべきポイントを押さえておけば、数字に基づいた判断ができるようになります。まずは、現状の原価率をチェックし、小さなところから改善を始めていきましょう。

