売上やコストを正しく把握し、利益構造を明確にすることは、安定した店舗運営を行う上で欠かせない要素です。特に昨今では、食材費や人件費の高騰、予期せぬ経済変動など、店舗経営を取り巻く環境が目まぐるしく変化しています。こうした状況下で「どれだけ儲かっているのか」「どこに無駄があるのか」といった経営実態を正確に把握するには、「PL管理(損益計算書の管理)」が鍵を握ります。
PL管理とは、利益や損失を数値として明確にし、経営判断に活かすための重要な管理手法です。本記事では、PL管理の基本から、損益計算書の見方・作り方、そしてその情報を活用した店舗における経営改善の手法まで解説します。
目次
PL管理の意味と役割
上述したとおり、損益計算書は決算書を構成する書類のひとつであり、一定期間の企業・店舗の経営成績を示すものです。英語で「Profit&Loss Statement」と記すことから、P/Lとも呼ばれています。
損益計算書を作成する目的
店舗では仕訳により日々の取引を記録していますが、そのデータを集計したものを基にして損益計算書が作成されます。店舗規模にもよりますが、仕訳も損益計算書の作成も手間と時間がかかる作業です。損益計算書を作成する目的は下記の通りです。
まず、法人は年に1回決算書を作成して税務署に提出しなければなりません。その決算書の中に損益計算書も含まれるため、併せて作成します。損益計算書に記載されている利益を基にして国に納付する税金の金額も決まるため、間違いや不正などがないかチェックされます。
他の場面でも損益計算書が使われることはありますが、税務署への提出は全ての企業に義務付けられているため、損益計算書を作成する一番の目的は税務署への提出と言えるでしょう。
損益計算書が役立つ場面
損益計算書には、経営上重要な内容が多く記載されています。会計期間ごとの業績が分かるため、自店舗の業績を把握する上で役立つでしょう。損益計算書を作成することで、自店舗の課題や改善点を発見できることも少なくありません。
上場企業や大企業なら、損益計算書を含め決算書が公表されているため、競合他社との比較にも使えます。様式が統一されているため競合他社と比べて、自社が優れている点や劣る点などを把握できるでしょう。
銀行などの金融機関から融資を受ける場合にも、損益計算書が役立ちます。金融機関は企業に対して融資を行う前に、審査を行います。その際に提出を求める書類の中に損益計算書が含まれています。売上や利益が伸びている企業なら、融資を受ける上で有利に働くかもしれません。
また、取引先などに提示すれば、自社が信用できるとアピールすることもできるでしょう。
損益計算書に記載する内容
損益計算書には多くの項目が記載されていますが、いずれも収益、費用、利益のどれかに分けることができます。
収益というのは、会計期間中に稼いだ金額を表す数字です。売上高がその代表的な例で、損益計算書に記載する収益の大半を売上高が占めます。費用は事業を営んで利益を出すためにかかった金額を表す数字です。
飲食店や小売店を経営している場合には、売上原価が大きな割合を占めるでしょう。売上原価というのは、仕入れた商品のうち、売れた商品の分の仕入額のことです。まだ売れていない商品の分の仕入額に関しては売上原価には含めません。
また、支払家賃や水道光熱費、消耗品費、人件費なども費用です。実際に支払いをしていなくても、費用として扱われる項目もあります。例えば、減価償却費や固定資産売却損などです。収益も費用も、本業として行っていること以外についても記載が必要です。例えば、株式投資を行っている場合には、投資有価証券売却益を記載します。そして、収益から費用を差し引いた数字が利益です。ただし、利益を計算する際に、収益も費用も全て含めるとは限りません。含める範囲によって計算される利益の種類も違ってきます。
実際の現金の流れとは一致しない
損益計算書に記載されている売上高などの収益の数字を見ると、それだけの現金が入ってきたように思えるでしょう。しかし、必ずしも収益として記載されている数字の分の現金が入ってきているわけではありません。
損益計算書は日々の取引を記録する仕訳を基にして作成されています。そして、仕訳は現金が支払われた時点で行うのではなく、売買が確定した時点で行われる仕組みです。そのため、売上高の中には、代金をまだ回収していないケースも含まれています。
例えば、飲食店や小売店でのクレジットカードやスマートフォン決済などのキャッシュレス決済による売上が代表的な例です。その費用に関しても、費用が発生した時点で仕訳を行います。そのため、損益計算書の売上原価には未払いの費用分も含まれていることになるのです。
損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の違いとは?

飲食店経営において、財務状況を把握するために活用されるのが「損益計算書(PL)」と「貸借対照表(BS)」の2つの財務諸表です。両者は混同されがちですが、目的と役割が大きく異なります。
損益計算書(PL)は、一定期間の「経営成績」を示すもので、売上や原価、経費などを差し引いた結果として、利益や損失がいくらだったかを明らかにします。いわば「お店がどれだけ儲かったか」を表すものです。
これに対し、貸借対照表(BS)は、ある時点における「財政状態」を示すもので、資産、負債、純資産のバランスを確認するために使われます。つまり、「現在どのくらいの財産を持っていて、どのくらいの借金があるのか」を把握するのがBSの目的です。
PLは収支の流れを、BSは財務の構造を示すものであり、両者を併せて分析することで、飲食店経営の健全性を総合的に判断することが可能になります。
損益計算書で分かること
損益計算書では、基本的に【収益-費用=利益】という式に従って、経営成績を算出します。この利益にはいくつかの種類があり、それぞれ何を示しているかが変わります。
売上総利益
売上総利益は、【売上高-売上原価】で算出される利益です。売上高は料理やサービスの提供、商品の販売などの営業活動によって発生する収入のことです。売上原価は売上高に対応する原価のことであり、飲食店における最たる例は食材などの仕入れ費用がこの売上原価に該当します。
算出される売上総利益は店舗の「基本的な収益力」であり、この計算での利益率が店舗の経営に大きく影響します。なお、売上総利益は、粗利益ともいわれます。
また、売上総利益の金額が分かれば、売上総利益率も算出可能です。売上総利益の金額を売上高の金額で割って100をかけると、パーセントで表されます。基本的に売上総利益率が高ければ、付加価値も高いことが多いです。ただし、戦略として薄利多売を行っている場合には、付加価値が低くなくても売上総利益率は低くなる傾向にあります。
営業利益
営業利益は、【売上総利益-販売費・一般管理費】で算出される利益です。販売費・一般管理費は、販売活動や管理などにかかる費用で、従業員給与に代表される人件費をはじめ、インターネット広告などに拠出する宣伝販促費や、日々の店舗運営に不可欠な電気やガス、水道などの光熱費などがこれに該当します。算出される利益は、日々の営業活動によって生じた純粋な利益といえます。
営業利益の金額から営業利益率を算出可能です。営業利益の金額を売上高の金額で割った数値に100をかけると、パーセントで表されます。
営業利益率は、本業での収益性が高い企業ほど高い数値になるのが特徴です。販売費や一般管理費が含まれているため、売上が良くても余分なコストをかけている場合には低い数値になってしまいます。同業他社と比べて低いようであれば、コストを見直してみるといいでしょう。
経常利益
経常利益は、【営業利益+営業外収益-営業外費用】で算出される利益です。営業外利益は営業活動以外での収益のことで、例えば所有する不動産物件による賃貸料の収入などが該当します。営業外費用は営業活動以外で要した費用のことで、借入金の利息として支払った費用などがこれに当たります。これらによって算出される経常利益は、事業全体の利益を指しています。
経常利益から経常利益率を算出する場合は、経常利益率の金額を売上高の金額で割って100をかけるとパーセントで表されます。本業以外のことも含めて、会社の収益性を見ることができるので、経営が効率的かどうか判断する上で役立つでしょう。もし、経常利益が営業利益率よりも低ければ、経営の効率が良くない可能性が高いです。
税引前当期純利益
税引前当期純利益は、【経常利益+特別利益-特別損失】で算出される利益です。特別利益は営業活動以外で発生した臨時の収益で、例えば、不動産の売却による収入などがある場合これに該当します。特別損失は営業活動以外で要した臨時の費用のことであり、不慮のトラブルにより発生しうる賠償金などが該当します。これらによって算出される税引前当期純利益は税金を控除する前の最終的な利益を指しています。
当期純利益
当期純利益は、【税引前当期純利益-税金等】で算出される利益です。税金等は法人税、住民税などが含まれ、これによって算出される利益は企業の最終的な利益を指しています。
過年度分との比較
損益計算書は毎年作成するものであるため、過年度分と比較することができます。まずチェックしておくべきなのは、売上高がどのくらい上がっているかどうかでしょう。このときに売上高増加率を計算することで、成長度合いを客観的な数値で把握することができます。売上高増加率の計算方法は、当期の売上高と前期の売上高の差を前期の売上高で割り、100をかけるという手順です。そうすると、前期から当期までの売上の伸びをパーセントで表すことができます。
ただし、売上高増加率では売上高についての成長しか把握することができません。利益については考慮されていないという点に留意しておきましょう。
利益についても分析したい場合には、経常利益増加率を計算してみましょう。当期の経常利益と前期の経常利益の差を前期の経常利益で割り、100をかけるとパーセントで表すことができます。この数字が大きければ、経常利益が大きく伸びていることになります。
会社の業績を分析する際には、売上高増加率と経常利益増加率の両方を組み合わせるのが効果的です。
損益分岐点の考え方と計算方法
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど等しくなり、利益も損失も出ていない「収支トントン」の状態を指します。つまり、売上がこの損益分岐点を上回れば黒字、下回れば赤字となるため、飲食店経営においては極めて重要な指標です。
損益分岐点を計算するには、まず「固定費」と「変動費」を分けて把握することが大切です。固定費は家賃や人件費(変動費として扱うケースもあり)など、売上にかかわらず毎月一定額かかる費用。一方、変動費は食材費など、売上に比例して増減する費用です。これらを基に「貢献利益(=売上−変動費)」を算出し、次の計算式で損益分岐点売上高を導き出します。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
月の固定費が100万円、変動費率が60%なら、損益分岐点売上高は250万円となります。つまり、月に250万円以上の売上がなければ赤字ということです。このように損益分岐点を正確に把握することで、売上目標の設定やコスト削減の戦略を立てやすくなり、店舗経営の安定化に繋がります。
損益計算書の作成手順
損益計算書(PL)の作成は、店舗の収益性を客観的に評価するための第一歩です。作成手順を理解し、正確な数値をもとにした管理を行うことで、的確な経営判断が可能になります。以下に、基本的な作成ステップを紹介します。
まず初めに、対象期間の「売上高」を集計します。次に、売上原価(例:食材費)を差し引くことで「売上総利益」を算出します。続いて、人件費、家賃、水道光熱費などの販売費および一般管理費を計上し、これを売上総利益から引くと「営業利益」が導かれます。
さらに、営業外収益(例:利息収入)や営業外費用(例:借入金の利息)を加味して「経常利益」を計算します。その後、特別利益や特別損失を反映し「税引前当期純利益」、法人税などを控除して最終的な「当期純利益」が完成します。
損益計算書の正確な作成には、日々の帳簿付けや売上・費用の記録が不可欠です。後述するPOSレジの活用によって、これらの作業を効率化し、リアルタイムでPLの確認ができるようになります。
POSレジシステムで損益計算書を手軽に確認
損益計算書を確認すれば、店舗の経営状況を数字で判断することができます。損益計算書に記載されている当期純利益は、企業や店舗の最終的な利益です。これがプラスであれば黒字であり、この黒字を積み重ねていくことで経営が安定します。
損益計算書を含む決算書は確定申告や融資審査、店舗の経営状態の確認など重要なタイミングで必要になるものの、しっかりとした対策をとっていない限り、いつでもすぐに確認できるというものではありません。
店舗の経営状況の把握に重要な指標を、いつでも確認できるようにしておくことは、経営者として絶対に必要なことではないでしょうか。損益計算書を作成・照会できる機能が搭載されているPOSレジを導入すれば、いつでも手軽に損益計算書を確認できるようになります。また、レジとして売上履歴を記録することができるため、日次や週次など短いスパンでの損益計算書を照会することも可能です。
POSレジは店舗経営をサポートする多機能なツール
POSレジは、単なる会計機器の枠を超え、飲食店の経営を支える強力なビジネスツールとして活用されています。売上の集計や在庫の管理、スタッフの勤務状況の把握など、日々の運営に必要な情報をリアルタイムで可視化できるため、損益管理の効率が格段に向上します。
特に売上データの分析機能は、商品別・時間帯別・スタッフ別などの多角的な視点から経営状況を把握するのに役立ち、販売戦略の見直しや原価率の調整に有効です。また、在庫管理と連動させれば、仕入れの最適化や食材ロスの削減にも直結します。人件費の過不足も勤怠情報との連動により把握でき、適正なスタッフ配置の判断材料にもなります。
ただし、全てのPOSレジが損益計算書(PL)の作成や詳細な売上分析に対応しているわけではなく、これらの機能が「標準搭載」ではなく「オプション扱い」となっている場合もあります。そのため、導入前には「どの機能が標準で使えるのか」「追加費用が発生するのか」などを事前に確認することが非常に重要です。
USENレジなら経営指標の管理や分析もワンストップで可能
経営改善を本気で目指す飲食店におすすめしたいのが「USENレジ」です。USENレジは、単なる会計処理に留まらず、損益管理に必要な経営データを一元的に扱える"ワンストップ管理"を実現したPOSレジです。
最大の特長は、売上、原価、人件費、客単価、来店数などの指標をリアルタイムで集計・可視化できる点です。従来は手作業で集計していた損益計算書の作成もスムーズになり、店舗経営における意思決定のスピードと正確性が大幅に向上します。また、クラウド型のシステムを採用しているため、店舗外からでもスマートフォンやパソコンで経営状況を把握できるのも大きな利点です。
さらに、オーダーシステムやキャッシュレス決済などと連携することで、店舗運営をトータルで最適化できます。
FAQ(よくある質問)
PL管理についてのよくある質問と回答をまとめました。
PL管理とは何か?
PL管理とは、損益計算書(Profit and Loss Statement:PL)を活用して、売上や費用、利益の構造を分析・把握する経営管理手法です。飲食店では、売上に対して原価や人件費などの費用がどれだけかかっているのか、最終的にどれだけの利益が残っているのかを把握することで、経営の健全性を保つことが可能になります。
損益計算書はどうやって作成する?
損益計算書は、以下の手順で作成します。まず売上高を集計し、そこから売上原価(例:食材費)を差し引いて「売上総利益」を求めます。 次に、販売費や人件費、家賃といった一般管理費を差し引いて「営業利益」を計算します。営業外収益・費用を加減して「経常利益」を出し、特別損益を反映させた後、税金を差し引いて「当期純利益」を導きます。
手作業での作成も可能ですが、売上・原価・費用のデータを日々正確に管理する必要があるため、POSレジや会計ソフトを活用するのが現実的です。USENレジのようなPL分析を自動算出する機能を備えたPOSシステムを導入することで、正確かつスピーディーに損益計算書を作成できます。

