パブリックビューイングとは、大型のスクリーンでスポーツの試合やコンサートなどの映像を流し、大勢で観戦・鑑賞を楽しむイベントです。最近では多くの飲食店で行われるようになってきました。
この記事では、パブリックビューイングのやり方、お店で開催する際の注意点を解説します。
目次
【監修者のご紹介】南 陽輔 弁護士
大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録、2021年独立開業(大阪弁護士会所属)
大阪市内の法律事務所にて、民事訴訟案件、刑事事件案件など幅広い領域の法律業務を担当。その後、2021年3月に「一歩法律事務所」を設立。
現在は、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主な業務としている。
パブリックビューイングとは
パブリックビューイングとは、スタジアムや街頭に大画面の映像機材を設置して、スポーツやコンサートなどの観戦や観覧をする催しです。街頭の大型ビジョンなどで無料解放される場合もあれば、映画館などで入場料を徴収して行われる場合もあります。
最近では、ワールドカップやオリンピックの盛り上がりを受けて、バーや居酒屋など飲食店で開催されることも珍しくありません。料理やお酒を楽しみながら、大勢の人と一緒にスポーツを応援したり、映像を楽しめたりするのは大きな魅力です。
プライベートビューイングとの違い
公共の場で大人数が集まって観るパブリックビューイングに対して、友人など見知った関係の人たちとホームパーティ形式で観戦を楽しむのがプライベートビューイングです。家庭内で楽しむ範囲であれば、基本的にプライベートビューイングに該当します。
一方、パブリックビューイングには、法的な制約がいくつかあり、自由に行ってよいわけではありません。どこかに場所を借りて大型スクリーンやプロジェクターで上映会を行う場合は、著作権法にふれる可能性もあるため注意が必要です。
パブリックビューイングをやる前
パブリックビューイングを行う場合、確認しておかなければいけないことがあります。対応できていないと違法になるケースもあるので事前のチェックは欠かせません。
放送事業者への許諾を取る
パブリックビューイングを行う場合、放送事業者にライセンス料を支払って許諾を得なければならないのが大原則です。
著作権法100条に、「放送事業者は、影像を拡大する特別の装置を用いて、当該放送を公に伝達する権利を専有する」とあり、パブリックビューイングは、放送事業者のこの専有権を侵害するおそれがあります。そのため、放送事業者にライセンス料を支払い、許諾を得る必要性が出てくるのです。
ただし、次項で述べる 非営利目的での放映や家庭用テレビを用いた放映などの例外があります。
たとえば、サッカーのワールドカップ・パブリックビューイング事務局によると、過去のFIFA World Cupの試合において、商業イベント(営利目的)としての映像利用は20~365万円のライセンス料がかかりました。とくに中小規模の飲食店にとっては、たとえ20万円であっても集客と見合わないケースが多いかもしれません。
しかし、事務局では「契約の内容は国ごとによって異なる」としており、どんな状況でライセンスが必要なのかといった基準や条件は不明瞭です。パブリックビューイングの開催を考えている場合は、事前にライセンスの要・不要について確認したほうがよいでしょう。
営利目的ならライセンス料の支払いが必要になる可能性が高い
著作権法38条3項では、「営利を目的とせず、聴衆から料金を受け取らない場合には、公に放映しても良い」と定めています。
来店客から視聴料を徴収する行為は、「営利目的」に含まれます。
また、パブリックビューイングが可能であることを告知して集客することも営利目的に含まれます。これら営利目的で放映するの場合、次項で述べる 家庭用テレビを使う場合を除いては、著作権者への申請、審査が必要なほか、必ずライセンス料を支払わなければなりません。ライセンス料は各大会の事務局で異なります。
先述の通り、著作権法100条では、「放送事業者は、影像を拡大する特別の装置を用いて、当該放送を公に伝達する権利を専有する」とあります。要するに、家庭用テレビ以外の映像機器で上映する権利は放送事業者にあるので、プロジェクターや大型ビジョンなどで勝手に上映してはならないということです。
一方、公民館などで無料の応援イベントの一環として放映するような非営利目的に該当する場合には、著作権法38条3項で許容されます。
過去の例をみると、「2018年FIFAワールドカップ ロシア」では、収容人数500人未満のスペースでライセンス料は20万円、非商業イベントでも5万円必要でした。しかし、2022年のカタール開催からは、パブリックビューイングに該当しない非商業イベントはライセンス不要 になっています。どちらに該当するかはっきりしない場合は、必ず確認しておきましょう。
参照:パブリックビューイング.JP「2018 FIFA World Cup Russia™ 開催について」
テレビの大きさに注意する
著作権法38条3項では、「通常の家庭用受信装置を使用する場合に限り放映しても良い」とされています。
つまり、家庭用受信装置=家庭用テレビであれば、著作権者の許可は必要ないということです。これは、営利目的があっても同様です。
そのため、飲食店の店内で家庭用テレビを利用して放映する場合には、著作権侵害には当たりません。
また、家庭用テレビが具体的にどの程度のものを指すのかは定められていませんが、一般的には55インチ程度以下であれば家庭用テレビとみなされるでしょう。
ただし、これはケースバイケースと言わざるを得ませんので、不安な場合は事務局や専門家に確認してください。
飲食店などで設置する場合は、テレビモニターの大きさに注意しましょう。
パブリックビューイングの始め方
大きなスポーツイベントなどが開催されると多くの人が注目するため、期間中はパブリックビューイングで一定の集客を見込めます。営利目的でパブリックビューイングを行う場合は、許諾やライセンス申請のほか、開催に向けた準備や告知をするとよいでしょう。
収容人数・会場面積・放映機器を確認する
パブリックビューイングを開催する際には、会場の収容人数や面積、使用予定の放映機器に関する情報が必要な場合が多いため、事前にまとめておきましょう。収容人数や放映機器によっては許諾やライセンス料が変動する可能性があり、しっかりと確認する必要があります。
家庭用サイズのテレビであれば、放送事業者への権利侵害とはならないため、複数台店内に配置するのも検討するとよいでしょう。食事を楽しみながら応援・鑑賞をすると想定した場合、1台ではどうしても見えにくい席が出てきます。どの席からもある程度は見えるように、色々なところに配置するのがベターです。
権利元に申請する
営利目的で大型モニターを利用する等のかたち形でパブリックビューイングを開催するためには、まず権利元に申請することが必要です。詳細な手続きやルールは大会によって異なるため、各大会の事務局が公開している申請書類を確認し、必要な情報を提供して申請します。その後、審査が行われ、承認された場合にパブリックビューイングを開催できます。
ただし、放映する映像によっては、放送事業者への許諾が必要となる場合があります。この場合、放送事業者との間で別途契約を結ぶ必要があります。
SNSや店頭看板で告知する
事前の申請や会場の準備が完了したら、告知するとよいでしょう。最近では、お店を検索して探すのではなく、SNSを利用するケースが増えてきています。SNSは拡散性が高いので、積極的に利用しましょう。また、店頭のスタンド看板などを利用した告知方法も効果が見込めます。
非営利でパブリックビューイングを行う際の告知は、場合によって営利目的とみなされるリスクがあるため注意が必要です。心配な場合は、専門家に相談してください。
イベントに合わせた特別メニューやドリンクを展開する
スポーツ観戦やイベントの鑑賞だけなら家でゆっくり、という人も多いです。しかし、イベントに合わせた付加価値をつけられれば、店舗でのビューイングという点で強みが出ます。イベントが行われる期間限定の特別メニューを提供したり、団体割引やお得なサービスを用意したりすれば特別感が出て喜んでもらえるでしょう。
顧客に喜んでもらえたら、パブリックビューイングを再度開催するときはもちろん、通常営業の日にも来店するリピーターになる可能性があります。パブリックビューイングならではのサービスを検討しましょう。
パブリックビューイングは感動を共有できる空間
パブリックビューイングは、スタジアムや大きなホールなどを使って数百人規模で開催される観戦・鑑賞イベントです。最近では、サッカーのワールドカップや東京オリンピックの開催を機に、比較的中小規模な飲食店でも広く行われるようになってきました。イベント中は多くの人が注目するので、店舗にとっては集客のチャンスでもあります。ピンポイントで販促を行えば、大きな効果が見込めるでしょう。
ただ、開催する方法によっては、著作権者に許諾を得てライセンス料を支払わなければならない場合もあります。判断に迷う場合は、事前に関係機関へ確認するなどしておきましょう。
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