著作権や著作隣接権などの著作権法上の権利には、普段の生活ではあまり考えることのない決まりごとが含まれています。そのため、知らないうちに違反をしてしまうケースも考えられます。 一定期間が経過した著作物は、その権利を消滅させることにより、社会全体の共有財産として自由に利用できるようになるシステムになっています。このルールは2018年の法改正により変更され、著作権を取り巻く環境が大きく変化しました。 今回は、現行の著作権保護期間のルールや、変更された内容などを解説します。
目次
著作権の保護期間とは?

改正以前の著作権法では,著作物等の保護期間は原則として著作者の死後50年までとされていました。保護期間はどのように変更されたのでしょうか。
以前の保護期間と現在の保護期間
環太平洋パートナーシップ協定の締結及び環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律(平成28年法律第108号。以下「TPP整備法」という)による著作権法の改正により、著作物等の保護期間は原則として著作者の死後70年までとなりました。
変名や無名、団体名義の作品の場合は著作物の公表から数えて50年となっていましたが、こちらも同じく70年に延長されています。あわせて変更になったものはその他にもあり、実演やレコードも公表後50年から、70年へ延長となりました。映画については延長以前から保護期間が70年なので変更はありません。これらに関しては、公表がなされなかった場合は、創作後70年が著作権の保護期間となります。
保護期間の計算方法
条件が様々で複雑になりがちな保護期間の計算方法は、できるだけ簡単になるように考えられています。シンプルに言うと、保護期間は死亡、公表、創作のいずれの場合もその年の翌年1月1日から計算することがルールで定められています。
例外的に別の算出方法が適用される場合として、連載作品の場合が該当します。最終話もしくは連載中断から3年経過している場合は直近の公表から計算します。
例えば2019年に著作権者が死亡した場合
上記の算出方法の例として、2019年に著作権者が死亡した場合は翌年の2020年1月1日から数えて2089年12月31日までが著作権の保護期間となります。
法改正前に保護期間が切れた著作物の扱いはどうなる?
著作権法には、一度保護期間が切れた著作物について、「その保護を後になって復活させる措置は採らない」という原則があります。そのため、現行法が施行された2018年12月30日の前日までに著作権等が消滅していない著作物等についてのみ保護期間が延長されました(TPP整備法附則第7条)。つまり改正以前に保護期間が切れていたものについては、さかのぼって保護期間が延長されることはありませんので注意しましょう。
著作権改正に関して注意しておくべき影響
2018年の著作権法改正は、国内外で様々な影響を及ぼしました。著作権を取り巻く環境の変化は日本だけの問題にとどまらず、世界中が巻き込まれる問題です。ここでは、現行の保護期間延長によるメリットやデメリットを含め、どのような影響が生じたのかを把握しておきましょう。
保護期間延長のメリット・デメリット
まずは著作権者の権利が強化されたことが大きなメリットです。著作物等の保護期間が原則著作者の死後70年としている国(改正前は日本は含まれていなかった)においては、その国で相互主義が採用されている場合、これまでこれらの国における日本の著作物は原則著作者の死後50年までしか保護されていませんでした。つまり、海外においても50年の保護期間で日本の国内作品が管理されていたのですが、70年になったことによりアメリカやEUなど諸外国との足並みがそろったということです。
逆にデメリットとして考えられるのは、パブリックドメイン(著作権の切れた作品)の共有が遅れることや、誰が著作権者か分からなくなり許可が取れなくなる可能性が高まることがあげられます。特に許可がわからなくなる問題については、アナログな管理だと年数が長くなればなるだけミスが起こりやすくなります。管理の体制を整えるなどのインフラ強化が必要となるでしょう。
期間延長以外で注意すべきこと
著作権の保護期間延長とあわせて、著作物の一部非親告罪化が施行されました。法改正前の著作権法では、「著作権等を侵害する行為は刑事罰の対象となるものの、これらの罪は親告罪」とされていました。そのため、著作権者等の告訴がなければ公訴を提起することができませんでした。しかし、現行の制度では、著作権等侵害罪のうち、以下の全ての要件に該当する場合に限っては、非親告罪となり、著作権者等の告訴がなくとも公訴を提起することができるようになっています。
例えば、同人誌等の二次創作活動は原作のまま著作物等を用いるものではないですし、市場において原作と競合もしない、権利者の利益を不当に害するものではないとされます。一方で発売中の漫画や海賊版を販売する行為などは非親告罪となり得ます。
[1]侵害者が,侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的又は有償著作物等(権利者が有償で公衆に提供・提示している著作物等)の販売等により権利者の得ることが見込まれる利益を害する目的を有していること
[2]有償著作物等を「原作のまま」公衆譲渡若しくは公衆送信する侵害行為又はこれらの行為のために有償著作物等を複製する侵害行為であること
[3]有償著作物等の提供又は提示により権利者の得ることが見込まれる「利益が不当に害されることとなる場合」であること
引用:
http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/kantaiheiyo_hokaisei/
音楽の商業利用に関する著作権ルール

ここまでは著作権改正についてのみ、お伝えしてきましたが、著作権改正以外にも気をつけておくべき関連する注意点があります。それは著作権が切れていない音楽などの商業利用は、JASRACなどの音楽著作権管理事業者への利用申請が必要となっていることです。著作権侵害で訴えられてしまうケースも少なくないので、そういったトラブルを防ぐためにも、店舗でのBGM利用は事前に申請を行う、もしくは著作権処理も利用料に含まれた音楽サービスを利用するのが最善策と思われます。
著作権に関するよくある質問
上記で触れた商業利用のルールは、店舗でのBGM利用以外にも幅広く適用されます。ここでは、「インターネット上の音楽利用」「非営利目的の活動」「個人的なイベント」など、多くの人が疑問に持つ具体的なシーンを取り上げ、著作権の許諾が必要かどうかの判断基準をQ&Aで確認しましょう。
YouTubeを店内BGMとして使用するのは著作権違反ですか?
はい、店舗でBGMを流す行為は、不特定多数の「公衆」に対して音楽を聞かせる営利目的の利用と見なされます。この場合、著作権者(作詞・作曲家)や著作隣接権者(レコード会社など)の許諾を得て、著作権使用料を支払う必要があります。
また、YouTubeは個人的かつ非営利の視聴を目的としているため、利用規約でも店内BGMとしての商業利用は禁止されています。著作権管理団体への適切な手続きを行わずにYouTubeを店内BGMにすることは、著作権侵害および規約違反となります。
非営利目的の活動であれば、音楽の著作権の許諾は不要ですか?
原則として許諾が必要ですが、「営利を目的とせず」「聴衆または観衆から料金を受けず」「実演家等に報酬が支払われない」という3つの条件をすべて満たす演奏や歌唱(実演)を行う場合に限って不要となっています。
3つの条件を満たしてもCDや配信音源を使う場合はレコード会社などからの許諾が別に必要です。非営利であっても著作権は原則守られるため、安易な自己判断は避け、専門家や権利者への確認を強くお勧めします。
結婚式で流す音楽には著作権の許諾は必要ですか?
結婚式でBGMとして市販CDをそのまま流す(演奏)行為には、著作権の許諾が必要です。 しかし、多くの結婚式場はJASRACなどの著作権管理団体と包括契約を結んでいるため、BGM利用に限っては、新郎新婦などが個人での申請・支払いは原則不要です。 費用は式場側が負担しているケースがほとんどです。
著作権の延長と利用時の申請に注意しましょう
2018年の改正によって著作権の保護期間は延長され、そのルールは現在も適用されています。著作権ルールは複雑なため、あらためて関心を持ち理解を深めることが重要です。著作権の保護期間に関する正しい知識がないと、意図せず違法行為をしてしまう恐れがあります。法律では「知らなかった」では済まされないため、自身や事業を守るためにも正確な知識を身につけておきましょう。
店舗BGMのトラブルを避けるなら、「USEN MUSIC」などの店舗BGMサービスを利用することもオススメです。面倒な著作権の許諾問題で悩みたくない方は、お気軽にお問い合わせください。

