こども食堂の現状と課題改善にマッチした
USEN MUSIC(Wi-Fi機能を備えた音楽配信サービス)
田村:今回、こども食堂へ通算100拠点のUSEN MUSICの設置支援ができました。いろいろと至らない部分もあったと思いますが、お使いいただいてのこども食堂のみなさんの反応はいかがでしょうか?
湯浅:ご支援ありがとうございます。みなさんに喜んでいただけています。やはりコロナ禍でこども食堂も苦労していまして…。集まってわいわい食事をすることができない状況になってしまいました。運営されるみなさんは、会食ができないなかでいろいろと工夫して、お弁当の持ち帰りや食事以外のことで時間を過ごすなど、あまり口を開かなくても済むようなことをしながら、なんとか運営している状況です。
ここ最近は緩和されてきたものの、まだまだ黙食というフェーズであって、そういうなかで“音がない”というのはやはり厳しいようです。普段はあまりにも普通になってしまっていて、音についてあまり意識しないですが、そういう無音に近い状況になって“場の空気感を作ることがとても大事”だと気付いた方が多かったです。加えてご支援いただいたUSEN MUSICはWi-Fi機能も活用できてありがたいとおっしゃっています。
田村:お役に立てているようで良かったです。今いただいたお話にもありましたが、そもそもは各施設の通信環境への支援ということで始まったお話でした。むすびえにおける「こども食堂のIT支援プロジェクト」の一環だとお聞きしていますが。
湯浅:そうですね。こども食堂は民間の純粋なボランタリーな活動であることが多いです。「この地域も何だか寂しくなって、いろいろな課題を抱えているこどもが多いと聞くし、何か自分にできることはないか?」と考えて立ち上がるケースが一番多い印象です。そういうこともあって、一つ一つのこども食堂は本当に手弁当のボランティア活動なのです。時代背景とマッチしたこともあり、毎年1,000拠点以上のペースで増えており、最近の調査では7,300拠点を超えています。
こども食堂という名称ではあるものの、実際はその地域にお住いの方はどなたでも利用できるようになっています。ここに来たいと言ってくれる人に来てもらい、「みんなで一緒に食事したらおいしいよね!」というような感覚で運営されているので、実態として“地域交流の場”になっています。そういう場所が、地域のコミュニケーション活性化に必要だということで広がっています。
例えば、そこに来ているこどもの宿題を見てあげることもあるのですが、そういう時にどうしても通信環境の問題が発生してしまい、改善のニーズを感じるようになりました。こども食堂は、公民館やお寺を借りたり、自宅を開放するなどして実施しているケースが多く、必ずしも万全な通信環境が整っているわけではありません。そこでヒアリングしたところ、対象の6割以上の方がWi-Fi環境を必要としていました。
こども食堂の現場が、そこに集うみなさんにとってより良い場所にするために、応援できることは何でもやるという考えでむすびえは活動していますので、「通信環境改善に協力してもらえる企業はないだろうか?」と検討を進めていたというのが実情です。
田村:私もこども食堂の件は折に触れ見聞きはしていましたが、今回お話をいただいて自分なりにいろいろと調べてみました。それでむすびえが本当に素晴らしいことを実行していらっしゃると思い、我々ができる範囲は限られますが、可能な限りのことは協力しようということで始まりました。当初は通信環境改善というお話でしたが、よくよく考えると「一緒にBGMも使っていただいた方が良いのではないか?」と考えました。
過去からの音楽配信事業の現状を振り返ると、実は“情操教育の一環”として学校でお使いいただいているケースが多数あります。最近はチャイムの代わりに音楽を流すというところもあります。そういった実例もあり、こども食堂に集うみなさんにも有効だろうと思いました。
それから実はもう一つありまして、運営スタッフのみなさんへの“BGMとしての有効性”です。準備作業中などに好みの音楽を聴いていただければ作業効率にも良い影響があるでしょうし、休憩中にはリラックスにもつながるのではないかと。ここ最近はオフィスでのBGM利用も増えているのですが、これは“メンタルケアの一環”として取り入れられている側面もあり、音楽を聴くことで精神的に安定的して仕事に取り組めるということが統計上でも出ています。
湯浅:そうなんですね。エビデンスはあるのですか?
田村:あります。(※)そういった背景もあり、こども向けにはもちろん、運営されているスタッフの方々にも何かお役に立てればと考えました。(※)参考:音空間デザインラボ
湯浅:ありがとうございます。それは興味深いですね。実はこども食堂の参加者に対する効果や、地域に対する効果をどのように可視化するかというテーマがあります。感覚的にみなさんが喜んでいるとか、こどもの笑顔が増えたというような効果は確かにあっても、定量的に表現しようとするとこれが途端に難しくなります。
2023年に正式発足する「こども家庭庁」もバイオ・サイコ・ソーシャルの3分野での効果を言い始めています。生物としてのバイオ、つまり生理学的に良い効果、それからサイコ、心理的に良い効果、そしてソーシャル、社会的に良い効果、これが可視化できればという話になっています。
例えば、音楽に心理的なプラスの効果を生むエビデンスがあれば、それを含めて他の効果も足し上げていけると、こども食堂が持っている効果をもっと多くの方に理解いただけると思います。もちろんこども食堂なので、まずは「食」なのですが、食を通じての交流や団らん、それこそ様々なロールモデルと出会うための場であるという効果があるので、それを可視化できたらいいなと思っています。そのあたりでもご一緒できるとありがたいです。
地域コミュニティにおけるこども食堂の重要性と
その発展にむすびえとUSENが寄与できること
田村:コミュニティの意味合いが大きいというのは、いろいろと調べているなかでとても感じました。こども食堂は食の機能だけではなくなってきていると。その位置づけはどのくらい明確になってきているのでしょうか?
湯浅:私たちは明確にしたいと思っていますが、世の中にどの程度浸透しているかは未知数です。多分まだまだやるべき余地があるのだと思っています。例えば、運営者のみなさんは、「うちは食べるだけの場所じゃないですよ」とおっしゃるのですが、ご謙遜もあってかあまりそれを積極的には語らないのです。中には、運営者とそこに通うこどもたちの強い結びつきが感じられるエピソードも数多くあります。単なる食事の場所であればそうはならないと思います。こども食堂の役割は全体が10だとしたら、食べることは多分2か3程度で、7、8はこどもが自分を受け入れてくれて、のびのびできて大事にしてもらえていると感じられる場所であるということなのだと思います。
こども家庭庁もこども食堂を“全てのこどもの居場所作り”だと位置づけています。ようやく政府にも伝わってきたという感じです。これから本格的にこども食堂に対する世の中の見方も変わると思います。USENからも「地域コミュニティに重要な場所であるこども食堂への支援をしている」と発信していただけると、いろいろなルートから実態が伝わっていくのでありがたいです。
田村:USENを含むグループ全体で全国に約80万件のお客様がいらっしゃいます。そのうち約25万件が飲食店です。
今回のUSEN MUSICの提供をきっかけに、こども食堂の支援の今後に関する社内ディスカッションで、我々が取引している飲食店のお客様のなかにも支援を考えられる方々がいらっしゃるのではないかという意見が出てきました。「週に1回くらいなら地元のこどもたちを集めて、あたたかい食事を提供したいという気持ちや、お店を構える街や地域に貢献したいと考えている方が多いのではないか?」と思っています。そのあたりで何かご一緒できることがあればいいですね。
そして、支援の側面とは異なる部分もありますが、それこそ飲食店なので「食品ロス対策やフードロス対策などと関連性を持たせて、何か実現できそうなことはないか?」と検討を進めているところです。実際のところ、どうしたらこども食堂と飲食店を結び付けることができるのかという課題はありますが、数多くの飲食店のお客様との接点がある我々がお役に立てることが少しはあるのではないかと思っています。
湯浅:まさにご一緒できたらありがたいアイデアがあります。我々は今、こども食堂を始める方々のサポートをしたいと考えています。実現したら飲食店のみなさんに情報発信していただくことは可能ですか?
むすびえとして、2025年までに全小学校区をカバーする「約20,000拠点にこども食堂を開設」する目標を掲げています。始めたのは2018年なのですが、当時の小学校1年生が小学生の間に達成したく、2025年に設定しました。今のこどもたちは小学校区を越えるのが結構大変なようで、学校の許可がいるというところもあるので、自分でアクセスできる範囲に安心できるこども食堂が存在するという状態を作りたいと思っています。
コロナ対策は今後緩和されていくと思いますが、そうなればこの対策期間中でも年間1,000拠点以上増加していたので、実際に緩和が進めばさらに増えるのではないかと思います。そのタイミングでスタートアップを支援したいのです。
おっしゃるように個人飲食店の方がアイドルタイムや定休日を活用して、「月に1回1人1食を提供するくらいでも、地域の役に立てるならやってみよう」と思っていらっしゃる方がたくさんいるだろうと私も思います。実際、そうした背景でこども食堂を始めるケースも多いため、準備ができたらその情報をUSENのルートでも拡散していただけたら本当にありがたいですね。
それから食品ロスは環境省も課題視しているので、何かうまく結び付けられたらいいですね。ただお考えの通り、ロジスティック部分が大きなテーマとなると思います。そうしたなかでも参考になるモデルケースはありますので、また別の機会にお話できればと思います。
田村:USENは全国に約150拠点を構えています。各都道府県に必ず1カ所は拠点を置いています。グループ全従業員、約5,000名のうちセールス約2,000名とフィールドエンジニア約1,000名が各地でお客様をサポートしています。加えて連携を取るパートナー企業が約15,000社。そして販売代理店が約500社あります。そのほか、各種サービスデバイスを経由してお客様へのアクセスも可能です。全国各地の街のみなさまに育てていただいたUSENとしましては、お客様に有効な内容であればぜひ協力したいと思います。全国規模でのこども食堂の展開とその支援を通じての社会貢献をお考えのむすびえと、全国に人的リソースを配置しサービス提供と並行して地域への貢献も実現したいUSENは、基本的な理念に近いものがあると思っています。こども食堂へのUSEN MUSICの提供も、地域貢献の一つになっていれば幸いです。「幼い頃に行っていたこども食堂にいつも何気なく音楽が流れていたけど、あれはUSENだったよね!」という感じで、こどもたちの心に少しでも記憶が残ったらさらに嬉しいと思っています。
<むすびえ 湯浅 誠理事長 プロフィール>
社会活動家。東京大学先端科学技術研究センター特任教授。1990年代よりホームレス支援に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。
<USEN 田村 公正代表取締役社長 プロフィール>
1994年(株)USEN(USEN-NEXT GROUP)入社、2010年常務執行役員、2011年副社長執行役員を経て2013年に代表取締役社長に就任。そのキャリア過程において音楽配信コンテンツ制作部門の管掌役員やコーポレート部門長などミドル・バックオフィス領域の責任者を歴任。
- 対談日 2022年12月28日時点の情報です