Study 研究
公開日: 2026.03.23
更新日: 2026.03.23
BGMが消費者の商品価値判断に与える影響
BGMが商品の「価値」をどう変化させるのか、慶應義塾大学の川畑秀明教授と共同研究を行いました。
ECサイトの普及により、実店舗では「体験価値」の向上が求められています。空間の価値を大きく左右する店舗BGMですが、これまでは「アップテンポなら回転率が向上する」といった画一的な通説に基づく選曲が主流でした。しかし、消費者の価値観が多様化する現代においては、より個人の特性に合わせたアプローチが必要とされています。
そこでUSENは、消費者の「属性」に着目し、BGMが商品の価値評価に及ぼす影響について、慶應義塾大学の川畑秀明教授と共同研究を行いました。その結果、ターゲットの属性によって商品価値を高めるBGMが異なることや、音環境が消費者の心理や行動に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
実験概要
20~30代の成人女性59名を対象に、生活雑貨30品目を陳列した模擬店舗スペースにて実験を行いました。 参加者を「無音」「ジャズ」「テクノ」の3つのグループに分け、各条件の音環境下で商品を閲覧・評価してもらいました。音楽は予備実験として実施した音楽への印象評定に基づき、「雑貨店への適合度」と「覚醒度」が対照的な楽曲を選出しました。 また、評価の実施後に、すべての参加者に対してデプスインタビューを実施し、商品に対しての向き合い方や価値観を聴取しました。
結果 -1- BGMと消費者属性の「適合性」
全体平均では、BGMの有無やジャンルといった音環境の違いのみによる、商品評価額への直接的な効果は見られませんでした。
しかし、消費者の属性や価値観と音環境を掛け合わせて分析した結果、両者の「適合性」こそが、商品の評価額(推定価格)を左右する重要な要因であることが明らかになりました。
結果 -2- 商品評価額と個人の属性の関係
世帯年収1,000万円以上の層は、他の条件と比較して「無音(静寂)」条件下において、商品の評価額が有意に(※)高まりました。デプスインタビューの分析からは、高所得層は静寂を単なる「無」ではなく、「しっとりとした穏やかな空間」としてポジティブに受容し、店舗全体に「洗練された雰囲気」を感じ取っている様子がうかがえます。こうした静寂がもたらす上質な空間の印象や、余計な情報の介入を排した落ち着いた心理状態が、商品そのものの価値をじっくりと見極め、高く評価する要因として作用した可能性が示唆されました。
※有意・・・統計的に有意である(偶然ではなく、実際の効果によって生じたものと結論づけられる)ことを表しています。
また、消費者の心理的な特性に着目したところ、人生の意味や自己実現を重視する価値観を持つ層(幸福追求傾向:Eudaimonia 型)においては、「ジャズ」条件下で商品の評価額が有意に高まりました。デプスインタビューの分析からは、店舗空間の雰囲気と調和したジャズの持つ複雑性や文化的な情緒が、消費者の知的好奇心を刺激している様子がうかがえます。これにより、商品を単に眺めるだけでなく、その背景を想像したり新しい価値を発見しようとしたりする「能動的な探索行動」が促進され、結果として商品への高い評価につながったと考えられます。
結果 -3- 音環境と消費者心理の関係
評価額(金額)以外の側面でも、デプスインタビューの分析から、音環境が参加者の心理状態に独自の作用をもたらすことが示唆されました。
20~30代の実験参加者全体において、「テクノ」条件下では商品の「手触り」といった質感への肯定的な言及に加え、「可愛い」「好き」といった直感的な好意を示す発話が顕著に見られました(下図左上部分)。
評価額に統計的な有意差は見られなかったものの、テクノの「覚醒度を高める音環境」が消費者の感性に基づく評価を活性化させ、商品の持つ直感的な魅力を受容しやすい心理状態へ導く可能性が示唆されました。
また、無音条件下では、下図の1~3に示す部分に見られるように、「他者の視線や気配が気になり緊張する」「静かすぎて居心地が悪い」といった、対⼈的な⼼理的緊張や⼼理的距離を感じる回答が多く寄せられました。 このことから、BGMには単に空間を彩るだけでなく、店舗特有の緊張感を緩和し、消費者が心理的な負担を感じることなく商品と向き合える「心理的基盤」を整える機能があることが再確認されました。
今回の検証結果から、高所得者層をターゲットとした高価格帯・高級店には無音の緊張感を緩和しつつ静かな環境を維持するBGMを、ライフスタイル提案型店舗にはその世界観と調和するジャズを、若年層をターゲットとした感性的な商品を取り扱う店舗にはテクノを、といった具体的な活用法が見えてきました。 このように店舗における⾳のあり方は画⼀的なものではなく、ターゲットの所得や価値観といった属性との「適合性」を考慮した戦略的な⾳空間デザインを追求することで、商品が持つ本来の魅⼒を最⼤限に引き出し、実店舗ならではの豊かな体験価値を提供することが可能になると考えられます。
<共同研究:慶應義塾大学 文学部 川畑秀明教授>
キーワード:音楽・商品価値・体験価値・小売店・BGMの選び方
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研究者からのコメント
今回の共同研究は、これまで経験則や通説で語られることが多かった店舗BGMの役割を、消費者の心理的特性や価値観との「適合性」という観点から学術的に整理した点に大きな意義があります。特に、定量的な評価額の測定に加え、デプスインタビューを通じて「無音時の心理的緊張」や「属性ごとの評価プロセスの違い」といった深層心理を可視化できたことは、心理学の知見を実際の商業空間へ社会実装する上での重要なステップといえます。本研究で得られたエビデンスが、消費者の感性を満たす豊かな体験の創出、そして実店舗ならではの新しい価値提供の指針となることを期待しています。
慶應義塾大学 文学部 川畑秀明教授
2001年、九州大学大学院人間環境学研究科博士課程修了。博士(人間環境学)を取得。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ研究員、鹿児島大学教育学部准教授、慶應義塾大学文学部准教授を経て、2018年より現職。東京藝術大学客員教授、横浜市立大学客員教授。
専門は感性科学。実験心理学、認知神経科学を基礎として、美やアートへの感動といった人の感性のメカニズムを多角的に研究している。