Study 研究

公開日: 2025.04.14
更新日: 2025.04.14
電話の相手方に聞こえにくいBGM
オフィスでの電話中でも気兼ねなく利用しやすいBGMについて、東京大学大学院の四本裕子先生と研究しました。
オフィス内にBGMを導入しようとする際、電話の相手方に音楽が聞こえて、企業の印象に影響が出ないかという心配があるかと思います。特にコールセンター等、電話応対が多いオフィスでは、より一層懸念されるのではないでしょうか。
USENでは、BGMの種類や音量の違いが電話の相手方の聞こえ具合にどの程度の変化をもたらすのか、東京大学 四本裕子先生監修のもと、検証を行いました。その結果、BGMの違いによって電話の相手方の聞こえ具合や気になり具合に差が生まれることが明らかになりました。
実験概要
40~50代の日本語を母語とする男女65名を対象として、異なるアナウンスが流れる6つの電話番号に、各自で電話をかけてもらいました。使用された機器はスマートフォンもしくは固定電話でした。電話先ではアナウンスのバックにBGMとノイズを流すことで、オフィスの音環境を再現しており、参加者にはアナウンスやBGM、ノイズの聞こえ具合についてアンケートに回答してもらいました。
BGMについては、図の通り電話番号ごとに6条件を設定しており、これらの違いが聞こえ具合に影響をもたらすかどうかを調べました。
BGMの大きさを38dB、44dBの2条件に設定したのは、オフィスの想定暗騒音※レベル約50dBに対し、周囲に配慮したやや小さめのBGMレベルとして44dB、そこからスピーカーとの距離が2倍程度離れた位置で聞こえるBGMレベルとして38dBを想定したためです。(下図参照)
※暗騒音:測定対象の音以外に存在する環境音や雑音。ここではオフィス内の作業音や空調の音などを指す。
※illustrations by Storyset
結果 -1- BGMの聞こえ具合
アンケートでは、BGMの聞こえ具合について5段階で評価・回答してもらいました。その結果、BGMの種類・大きさをそれぞれ変更した場合の聞こえ具合に与える影響と、それら2つの要素が組み合わさって聞こえ具合に与える影響が、双方とも有意※であることが示されました。特にピアノが中心となるBGMの場合、電話の相手方に聞こえやすいことがわかりました。ボーカル入りのJ-POPと、ストリングス中心のBGMを比較した場合の聞こえ具合に差は見られませんでしたが、ストリングス中心のBGMのみ、音量が大きくなるとBGMが聞こえにくくなるという回答の傾向が見られました。
※有意・・・統計的に有意である(偶然ではなく、実際の効果によって生じたものと結論づけられる)ことを表しています。
結果 -2- BGMの気になり具合
こちらも同様にアンケートで、BGMの気になり具合について5段階で評価・回答してもらいました。その結果、BGMの種類・大きさをそれぞれ変更した場合に、BGMの気になり具合に与える影響が有意であることが示されました。
ピアノ中心のBGM(44dB)とそれ以外の条件に差異が見られました。ボーカル入りであるJ-POPであっても、他のインストゥルメンタルのBGMと比べて取り立てて気を取られるわけではないという結果が見られました。
まとめ
今回の研究の結果から以下のことがわかりました。
・BGMの種類や大きさによって、電話の相手方への聞こえ具合が異なる。特にストリングスが中心となった分厚いサウンドの楽曲は聞こえにくい。(後ほど補足)
・BGMの種類や大きさによって、電話の相手方がBGMにどれだけ気を取られるかが変化する。ただし、聞こえ具合よりも大きな違いは見られない。
・ボーカル入りの楽曲であっても、BGMの聞こえ具合やそれに気を取られるかどうかは、インストゥルメンタルのBGMと比較して差が少ない場合がある。
電話の相手方に配慮しながらオフィスにBGMを流したい場合は、分厚いサウンドのインストゥルメンタルのBGMがおすすめです。
また、J-POPも音量に配慮したうえで、気分転換にご利用いただくのもよいでしょう。
ストリングス中心のBGMが聞こえにくくなる理由の推察
ピアノは音の立ち上がりが早い楽器であり、かつ今回は単独で使われているため、一つ一つの音が際立ち、電話の相手方に聞こえやすくなったと考えられます。逆にストリングス系の音は立ち上がりが遅く、なだらかに続くため、電話においては目立ちにくい音になったのではないかと考えられます。また、J-POPは音のバランスがボーカルに寄っているため、ボーカルの音の動きはわかるものの、他の楽器は判別がつきにくいのではないかと推察されます。
総じて楽器の数が多く、分厚い複雑な音になっていたり、なだらかで音の動きがはっきりしなかったりする場合に、電話のような限られた音質の環境では、音楽として判別されにくいのではないかと考えられます。
<実験監修:東京大学大学院 総合文化研究科 四本裕子教授>
キーワード:オフィス・コールセンター・音量・音響設計・オンライン会議
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【免責事項】
・本ページの実験結果は、各種実験業務の委託により得た分析結果を記載したものです。
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研究者からのコメント
『どのように聞こえるか』『どうしたらより良く聞こえるか』といった「聞こえること」に焦点を当てた研究は数多くありますが、今回は『より聞こえない条件』を探ることに着目しました。私も予備実験の段階でさまざまなBGMを電話越しに聞き、BGMの種類によって気になるものと気にならないものがあることを体感し、興味深く感じました。職場環境のBGMは、そこで働く人やサービスを利用する顧客など、多様な人々に関わるため、65名という比較的多い人数で検証できたことにも意義があったと思います。
東京大学大学院 総合文化研究科 四本裕子教授
2005年、ブランダイス大学においてPh.D.を取得。ボストン大学およびマサチューセッツ総合病院リサーチフェロー、慶應義塾大学特任准教授を経て2021年より東京大学総合文化研究科准教授に着任。2022年より現職。専門は認知神経科学、知覚心理学。聴覚・視覚・触覚などの感覚知覚の神経科学的メカニズムや、それらの時間的特性を研究している。