コラム
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集中力の向上と維持と自律神経のコントロール

公開日:2020年5月18日

職場のストレスから身を守るために

大妻女子大学人間関係学部教授・精神科医 尾久裕紀教授



ストレスで風邪をひいたりがんになる場合も

職場において知らず知らずのうちに受けているストレスの中で、一番わかりやすいのはやはり人間関係のストレスです。案外わかりにくいのが、働いている環境から受けるストレスです。例えば机の位置やパソコンの位置が体に合っていないといった物理的なストレスのことですね。もちろん仕事の内容から受けるストレスというのもあります。また自分ではやりがいがあったり、モチベーションが高いと思っている仕事でも、実はストレスになっているということもあるのです。


ストレスを持続的に受けていると、まずは身体に変化が起こってきます。そこで初めてストレスを自覚する人も多いですね。具体的には自律神経やホルモンのバランスに影響します。持続的なストレスで交感神経と副交感神経のバランスを崩し、眠れなくなったり、動悸やめまいが起こることがあります。またホルモンへの影響で免疫機能が低下し、風邪にかかりやすくなったり、場合によってがんになることもあるのです。


職場のストレスから自分を守るのは大変だと思います。集団の中で仕事をしているわけですし、しかも今はパソコンに向かって一日中黙々と仕事をすることが多いでしょう。その中で適度の雑談ができたり、自由に席を立つことができる職場であればストレスも少ないと思いますが、例えば上司のパワハラに晒されたり、そこまでいかなくとも、上司に常に見張られているような職場は緊張度が高くストレスも高いと思います。また、季節の関係でメンタルバランスが崩れることもあります。やはり多いのは5月、6月です。4月は新年度の始まりで緊張が続き、ゴールデンウィークが終わった頃にその疲れがだんだん出てくることも要因のひとつです。あとは気象の変化がメンタルに及ぼす影響も大きいです。



落ち込んだ気分に何気なく寄り添ってくれる音楽

ストレスから解放されリラックスするには副交感神経が優位になることが必要ですが、そのための方法がいくつかあります。寝る前にお風呂に入ったり、軽い運動をしたり。あとは好きな音楽を聴くこともリラックスする方法のひとつですね。


特に最近は働いている人がストレスによる反応として、「やる気がしない」「憂うつだ」といった「うつ」症状を訴えることが多くなりました。こういう場合は何をするのも嫌になってしまいます。本当に何もしたくないのです。そのような時は、その時の気分に寄り添うような音楽を聴くことが大事です。これを同質の原理といいます。


落ち込んでいる人がにぎやかな音楽を聴くと、それを煩わしく感じるかもしれません。逆にそういう気分に寄り添うような音楽を聴くと、その人の支えになるというか、とても安心できるのです。落ち込んでいる人は誰かに「頑張って!」と励まされると煩わしく感じることが多いでしょう。それよりも、何も言わずただ一緒にいてくれることが支えになる。そうしてくれる人には「少し相談してみようかな」とか「一緒に何かしてみようかな」という前向きな気分になるのです。同じように、落ち込んだ気分の時は、穏やかで控えめだけれども、そっと寄り添ってくれるような音楽が気持ちを和ませてくれます。


ストレスがあってもそのことに気づかない人が全体の50%くらいいます。知らず知らずのうちにストレスを受けていることが非常に多いのです。ストレスに対処するには、まず気づくことが大事です。そこで音楽という観点から言うと、いつもは聴いていて気にならない音楽が耳障りに感じることがあれば、それはストレスによる反応かもしれません。いつもは心地よい、あるいはほとんど気にならないBGMが、最近はなぜか妙に煩わしい。もしかしたら自分は調子が悪いのかな?と。BGMを自分の心身のバロメーターとして利用することもできると思います。そのような場合、ぜひ一度自分の生活を見直してみてください。

尾久裕紀教授

尾久 裕紀(おぎゅう ひろき)

大妻女子大学人間関係学部教授、精神科医。
1957年生まれ。1981年東海大学医学部卒業。
病院勤務後、仏留学を経て、2014年より大妻女子大学 人間関係学部教授。
著書に「働く人の心の病」など



※ 本内容は、会報誌「Sound Design for OFFICE vol.1」に掲載されたものです。

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