Column コラム

公開日: 2026.05.25

更新日: 2026.05.25

音のチカラで高まる映像作品の魅力

九州大学の岩宮眞一郎名誉教授に、音楽と映像の組み合わせによってもたらされるさまざまな効果についてお話を伺いました。

 

私たちは、映画、テレビ、動画サイトなどで映像を用いたエンターテインメントを楽しんでいます。映像作品においては、主役である「映像」が脚光を浴びる存在ですが、映像作品は映像だけでは成り立ちません。必ず「音」を伴っています。音は、ストーリーを語り、リアリティを創出し、映像作品の魅力を高めています。映像作品におけるサウンドデザインは作品のデキ(質)を左右するプロセスなのです❶❷。
映像作品から聞こえてくる音は、映像の中に表現されている世界に存在する音と、その世界には存在しないが視聴者には聞こえている音に分類されます。映像の世界に存在する音は出演者の声や環境音などで、「inの音」「diegetic sound」などと言われています。一方、音楽、効果音、ナレーションなどのように映像の世界には存在しない音は、「offの音」「nondiegetic sound」などと呼ばれています。ナレーションはドラマの背景や登場人物の心情などを言葉で語ります。音楽や効果音は、言葉を使わずに、醸し出すムードによって場面の状況や登場人物の心情を視聴者に伝えます。
音楽や効果音の利用はドラマだけには限りません。ドキュメンタリ、バラエティ、ニュース、教養番組などでも、雰囲気を演出したり、内容を強調したりするために音楽や効果音が用いられています。

ストーリーを語る音楽

映像作品において、音楽は登場人物の心情を表現したり、場面の状況を伝えたりと、さまざまな演出効果を担っています。アクション映画のカーチェイスの場面では、テンポの速い音楽で視聴者の興奮をあおります。ホラー映画では不気味な音楽で恐怖感を増大させます。恋愛ドラマのラブシーンを盛り上げるのは、ムードあふれるロマンティックな音楽です。
同じ映像内容にさまざまなムードの音楽を組み合わせてアンケートを行ったところ、ストーリーがガラリと変わってしまうことがわかりました❸。映像内容は女性が家の中で本を読んでいる様子や、男性が森の中を歩いているところなどを組み合わせたもので、最後にドアをノックする音を加えています。この映像に「陽気でおだやかな」印象の音楽を組み合わせると、「2人は夫婦や知り合いといった互いに好意を持っている関係である」「久しぶりの再会に会話も弾み楽しく過ごす」といったハッピーなストーリーに解釈されていました。ところが同じ映像に「暗く緊張感のある」印象の音楽を組み合わせると、「女性への恨みを持った男性が居場所を見つけ出した」「男性が女性を見つけ出し殺そうとする」といったとても恐ろしい話になってしまいました。
音楽は、今展開されているドラマのストーリーを語るだけにとどまらず、これから先の展開まで予測させる機能を持っています。もう一歩進めて、音楽の予測を裏切るといったドラマの手法もまた効果的です。一例を紹介しましょう。医療系ドラマ『劇場版 コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-』(2018)の中で、医師と看護師が急患の知らせを受けて現場へ急行します。緊迫した場面で、この作品中最も速いテンポの音楽で緊張感を高めます❸。ところが、現場ではのびのびになっていた二人の結婚式が準備されていたというサプライズでした。音楽で緊張感をあおるだけあおるという演出が心温まるサプライズを印象づけています。

ストーリー展開に抗う音楽も効果的

楽しそうな場面に陽気な印象の音楽を組み合わせるというように、映像作品では映像と音楽のムードを一致させることが一般的です❶❷。
ドラマの流れに寄り添う音楽を流すことで自然なストーリーの展開を作りだすことができます。しかし、そんな展開ばかりでは退屈してしまいます。音楽と映像のムードを対立させることも、ときには効果的です。「音楽と映像の対位法」と呼ばれる手法です。巨匠・黒澤明監督は、『野良犬』(1949)でこの手法を効果的に使いました。逃走中の犯人が刑事に発砲する緊張感あふれる場面で、この場面にはそぐわないのんびりした印象のピアノ練習曲『ソナチネ』が流れてくるのです。
ただし、黒澤監督は、途中でピアノを弾く女性を画面に登場させて、映像とマッチしない音楽が存在してもおかしくないdiegeticな状況を設定したうえで、音楽と映像の対位法を用いているのです。映像作品の中で繰り広げられる物語に抗うように流れる音楽に違和感を持ちつつも、音源が存在することで物語としての整合がとれて、映像作品の深みが増すのです❶❷。

効果音によるムードの醸成、リアリティの創出、作品の盛り上げ

ドラマなどで、映像シーンの劇的な変化を表現したり、登場人物の心理的なショックを強調したりするために、「バーン」とか「ガーン」とかいった感じの音を鳴らすことがあります。こういった音のことを「効果音」と呼んでいます。効果音はnondiegetic soundの一種です。
効果音は心理描写にも利用されています。「ブワーン」といった低音の響きで不安な気持ち、「キーン」といった高音の効果音で不穏な雰囲気を漂わせることができます。ドキュメンタリやバラエティ番組などでも、特有のムードを作りだしたり、場面を強調したりするために,効果音が多用されています。
バラエティ番組や情報番組では、物事を分かりやすく説明するために、アニメーションやコンピュータ・グラフィックスを用いた映像表現が多用されています。そういった映像はバーチャルなもので実体はありません。いくら精緻に制作しても、映像表現だけではリアリティに欠けます。効果音は、こういったバーチャルな存在にリアリティを与えるチカラを持っています。
映像作品において,ある映像シーンから別の映像シーンへ場面を転換するとき、さまざまな切り替えパターンが用いられます。切り替えパターンでは、古い映像を残しつつ,新しい映像が少しずつ現れながら切り替わります。映像の切り替えパターンは実体のないものなので,もともと音はありません。しかし、無音状態での映像の切り替えパターンからは、変化のリアリティが感じられません。そこで、リアリティを感じさせるために効果音が用いられます。効果音の存在により、エネルギを使って映像が切り替わったような実感を持たせることができます。
新しい映像が画面の下端から上昇して古い映像に切り替わるような切り替えパターンには,ピッチが連続的に上昇するスイープ音がマッチすることが実験で示されています❷。対称的に、ピッチが連続的に下降するスイープ音は,画面の上端から下降して切り替わるパターンとマッチします。こういった映像の変化にマッチした効果音は映像表現のリアリティを向上させます。

場面の盛り上げに寄与する環境音

映像作品には、登場人物の暮らす空間での生活音、周囲の自然音、街の雑踏などの環境音も多く含まれています。環境音は、映像の世界の中に存在する音で、diegetic soundに分類されます。映像作品においては、環境音は場所の状況を表現する手段として広く用いられています。さらに、映像作品には、演出意図に基づいて挿入された環境音(演出的環境音)も多く用いられています。演出的環境音はストーリーの展開に重要な役割を担います。
演出的環境音は、初めて口づけをするカップルの背景に打ち上がる花火の音などのようにその場面を強く印象づけるために用いられます❶❸。また、主人公が銃撃を受ける直前に不気味に聞こえてくる鳥の鳴き声のように、何かが起こるのではないかという予感をさせるために演出的環境音が利用されることもあります。演出的環境音は、物語の世界に実際に存在する音です。そのため、物語の世界に存在しない効果音よりも自然な形で導入することができます。

音は映像にリアリティを創り出し、インパクトを与え、物語に深みを添える存在として映像作品を支えています。そんな音のチカラを活かすサウンドデザインが映像作品を成立させているのです。こうした音と映像が作り出す演出効果は、映画やドラマなどのエンターテインメントの世界にとどまらず、小売店や飲食店などの商業空間においても、世界観を伝え、顧客の体験をより豊かなものにするためにも有効な手立てとなるでしょう。

九州大学 岩宮眞一郎名誉教授

九州芸術工科大学専攻科修了、工学博士(東北大学)。九州芸術工科大学芸術工学部音響設計学科助手、助教授を経て、教授。九州大学との統合により、九州大学芸術工学研究院教授。定年退職の後、日本大学芸術学部特任教授(音楽学科情報音楽コース)。任期満了の後、日本大学芸術学研究科非常勤講師。
映像メディアにおける音の役割、音と映像の相互作用、音の主観評価、サウンドスケープ、聴能形成、音のデザイン等の研究・教育に従事。音のアフォーダンスを追求。

参考文献:

❶岩宮眞一郎(2023).よくわかる最新映像サウンドデザインの基本.秀和システム
❷岩宮眞一郎(2018).音のチカラ-感じる,楽しむ,そして活かす-.コロナ社.
❸岩宮眞一郎(2023).映像コンテンツにおけるサウンドデザイン―音がストーリーを語り、リアリティを生み出し、感動を増幅する―.日本音響学会2023年秋季研究発表会講演論文集,2-5-1.

キーワード:映像・サウンドデザイン・環境音・空間演出

コラム一覧ページ