コラム
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音楽の文化や未来をただしく守るために

公開日:2024年10月31日

音楽の文化や未来をただしく守るために

JASRAC広報部 篠﨑 正汰氏へのインタビュー





店舗や施設、音楽教室などで音楽を使用したり放送したりするにあたって、切っても切り離せない著作物使用料。それでは、どうして著作物使用料を支払わないといけないのでしょうか。それは、クリエイターの権利を守り、創作活動の存続へとつながるとのことです。JASRAC広報部の篠﨑氏に詳しいお話を伺いました。



―まず、著作物、著作権とは何でしょうか。

著作権法では、思想または感情を創作的に表現したものを「著作物」と呼びます。これは音楽に限らず、小説や絵画なども含まれます。音楽であれば、楽曲をつくりだした作詞家・作曲家の方が著作者となります。この著作者の持つ権利が著作権です。著作権は他人が、その作品を無断で利用したり、改変しないようにしたりすることができる権利です。著作権は譲渡することも可能です。音楽を利用する方は、著作権者から許諾を得る必要があり、その許諾の対価が「著作物使用料」となります。



―店舗や施設などで音楽を使いたいときに、著作物使用料を支払わなければならないのはなぜでしょうか。

お店などのご営業の中でカラオケやBGMなどの音楽を使用する際は、著作権法上の演奏権や上映権、伝達権が働くため著作権者の許諾が必要となります。JASRACの管理楽曲をお店などでご利用になる場合は、お店の経営者の方にJASRACとご契約をいただき、その際の許諾の対価としてJASRACに「著作物使用料」をお支払いいただいています。ここで支払われた著作物使用料は、JASRACから著作権者へ分配され、そのお金が次の創作への糧となっています。USENさんのBGMをお店で流す場合は、USENさんがお店に代わってJASRACへ著作物使用料をお支払いいただいていますので、個々のお店がJASRACに使用料を支払う必要はありません。



―音楽を創作するアーティストやクリエイターは必ずJASRACに登録しないといけないのでしょうか。

著作権管理団体への登録は義務ではありません。音楽クリエイターが自分で楽曲の著作権を管理することも可能です。しかし、クリエイター自身で利用者への許諾と使用料の請求などの業務をすべて行うのは、難しい場合もあると思います。事務的なことをJASRACにお任せいただくことで創作活動に専念することができます。また、音楽業界もグローバル化が進み、日本国内だけではなく海外での日本の楽曲の音楽利用も増えています。JASRACは世界で97カ国4地域の128の著作権管理団体と相互管理契約を結んでいます。JASRACに権利を預けていただいている楽曲が海外で利用される場合、現地の管理団体が楽曲の利用の許諾・請求業務を行っています。海外で集めた使用料は、JASRACへ送金され、JASRACから楽曲毎の権利者に分配しています。



―話は変わりますが、漫画で楽曲の歌詞が使われる際に吹き出しやコマの端に「JASRAC」と番号の文字を見かけることがしばしばあります。これは紙面だけですが、作詞家のほか作曲家や歌手にも著作物使用料が支払われるのでしょうか。

歌詞と曲(メロディー)はそれぞれ独立した著作物です。しかし、楽曲は歌詞と曲が結びついて一つの作品になるため、漫画で歌詞だけ利用されるケースでも、作詞家と作曲家にそれぞれ著作物使用料が分配されます。歌手(演奏者)は、作詞にも作曲にも携わっていない場合、著作権者ではありませんので、著作物使用料は分配されません。ただし、歌手(演奏者)は著作隣接権という権利を保有しています。著作隣接権とは、著作物を公衆に届ける役割を担っている歌手や演奏者・レコード会社などに与えられている権利です。複製や配信、放送などで、その歌手による歌唱音源を利用されるケースでは、著作隣接権者へのお手続きが必要です。



―今のお話をうかがっていて、気になったことがあります。モーツァルトやバッハといった作曲者の音楽を現代のアーティストが演奏した場合、著作隣接権はどうなりますか。

日本では、著作権は著作者が亡くなってから70年間保護され、それ以降は、権利が消滅します。モーツァルトやバッハは死後数百年経過していますので、著作権は消滅していますね。一方で、著作隣接権は音源の発行から70年保護されますので、現代の演奏家がモーツァルトやバッハの楽曲を演奏した音源には、著作隣接権が発生します。モーツァルトやバッハの楽曲を利用する場合、楽曲の著作権は消滅しているため、著作権のお手続きは必要ありませんが、現代のアーティストが演奏した音源を利用したい場合は、そのアーティストやレコード会社に許諾の手続きが必要となります。



―本日は著作物や使用料の仕組みに関して、詳しいお話をいただきありがとうございました。創作者であるアーティスト、クリエイターや音楽そのものの権利を守っていくために、貴団体のこれからの展望や活動についてお聞かせください。

JASRACは1939年の設立以来、80年以上音楽文化の発展や普及に向けて著作権の管理に向き合ってきました。クリエイターが労力をかけて生み出した作品に対して、正当な対価を得る。それがまた次の創作を支える。そんな循環を「創造のサイクル」と呼んでいます。著作権は、「創造のサイクル」を循環させ、新たな文化を生み出すために欠かせないものです。今後も、さまざまな立場の方それぞれが、聴きたい音楽であふれる社会であり続けられるよう、「創造のサイクル」を循環させ、クリエイターを支え、クリエイターの集う場となることを目指していきたいと思っています。



恩藏直人教授
篠﨑 正汰

篠﨑 正汰 プロフィール

2019年に一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に入職。仙台支部、横浜支部を経て2024年から広報部に在籍。

<JASRAC紹介>
1939年、音楽クリエイターたちが集結し創設。
以降、JASRACは音楽クリエイターの権利を守り、その挑戦を支えてきました。JASRACはこれからも音楽著作権の管理を通じて、ゆたかな創造あふれる未来を音楽クリエイターとともにめざしていきます。

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