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コロナ禍で期待されるクラシック音楽の効果

公開日:2021年5月17日

コロナ禍で期待されるクラシック音楽の効果

昭和女子大学 人間社会学部心理学科 池上真平 専任講師



「食」の楽しみを提供してくれる外食産業は、言うまでもなく私たちの生活に欠かせません。その外食産業が、今コロナ禍で危機に瀕しています。食事のためにマスクを外す必要がある飲食店では、様々な感染対策が講じられています。一方、顧客側にも自治体から「マスク飲食」が呼びかけられるなど、マナーが求められていますが、ついマスクを外したままで会話をしてしまうことがないとも限りません。
飲食店の多くでは、BGMが用いられています。このBGMの力で、なんとか飲食店における感染リスクを軽減させた上で、売上にも貢献することはできないでしょうか。本コラムでは、先行研究の知見に基づいて、コロナ禍における飲食店のBGM活用について一考します。

大きな音量で会話を妨害したら良い?

BGMによって会話を抑制する方法として考えられる最も安易な方法は、会話をかき消してしまうほど大きな音量でBGMを流すことです。会話をしようとしても相手の話を聞き取ることができなければ、会話を抑制することに繋がるかもしれません。しかし、この方法では、注文時などに必要な声までもかき消してしまいます。さらに、BGMに負けじと大きな声で話しだす人が現れるかもしれず、良い方法とはいえないでしょう。どうやらBGMの音“量”ではなく、性“質”について考える必要がありそうです。

会話が抑制される雰囲気を自然に演出できる音楽とは?

人の行動は、その場の雰囲気に左右されるものです。例えば、雑多で活気のある場所と、上品で落ち着いた場所があったとします。どちらの方が、食事をしていてつい話が盛り上がりそうでしょうか。多くの方が前者と答えるのではないでしょうか。
ここで、ノースとハーグリーヴスが行なった研究(North & Hargreaves, 1998)を紹介します。彼らは、大学のカフェテリアのBGMを様々に変えて、このことがカフェテリアの雰囲気にどのように影響するのかについて、実験を行いました。用いたBGMは、ポップス、クラシック、イージーリスニングの3種類です。これにBGMなし条件を加えて、計4条件の間で、比較を行いました。カフェテリアの顧客に回答を求めた結果、同じカフェテリアであるにもかかわらず、BGMにクラシック音楽を用いた条件のもとでは、カフェテリアを「エレガント」(上品・優雅)で「穏やか」な雰囲気であると感じさせていました。一方、ポップス条件では、「明るく活動的で、穏やかではない」雰囲気と感じさせていました。
この研究では3つの音楽ジャンルについて扱ったに過ぎませんが、クラシック音楽は飲食店をエレガントで穏やかな雰囲気に感じさせることで、会話を控えやすい環境を顧客に提供できる可能性があります。

クラシック音楽は売上にも貢献

ここまで読んで、特に飲食業に携わる方は、「肝心の売上の方は大丈夫なのか」と心配されるかもしれません。実は上述のノースらの研究では、「料理に対していくら支払うか」についても回答を求めていました。その結果、最も金額が高かったのが、クラシック音楽条件だったのです。ノースらが後に発表した研究においても、クラシック音楽のBGMを用いた場合に、ポップスやBGMなしの場合よりも食べ物の実際の売上が高くなったことが実証されています(North, Shilcock, & Hargreaves, 2003)。おそらくは、クラシック音楽が持つ品格のようなものが、顧客に「お金を出しても良い」という気持ちにさせるのではないでしょうか。

もちろん、お店の内装やコンセプト等との相性は十分に考慮する必要はありますし、会話抑制効果については実証実験をしたわけではありませんが、このコロナ禍においては、クラシック音楽の力にも目を向けたいものです。

引用文献

North, A. C. and Hargreaves, D. J. (1998). The effects of music on atmosphere and
 purchase intentions in a cafeteria, Journal of Applied Social Psychology, 28, 2254–2273.

North, A. C., Shilcock, A. and Hargreaves, D. J. (2003). The effect of musical style on
 restaurant customers’ spending, Environment and Behavior, 35, 712–718.

池上 真平

池上 真平(いけがみ しんぺい)

昭和女子大学 人間社会学部心理学科 専任講師
青山学院大学教育人間科学部助手、同助教を経て現職。
博士(心理学)。日本音楽知覚認知学会幹事。
昭和女子大学生活心理研究所所員。人の感性を支える心の働きに関心を持っており、「楽しく研究する」をモットーに、主に音楽をテーマにした心理学研究に従事している。専門は音楽心理学、認知心理学、実験心理学。

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